弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年11月28日

「検証。自衛隊、南スーダンPKO」

社会

(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版  岩波書店

福岡県弁護士会は去る11月半ばに著者を招いて天神で講演会を開催しました。
著者の話は自らの現地取材を踏まえていますし、防衛省・自衛隊トップから直接話を聞いていますので、大変詳しく、かつ説得力があります。上から目線の話ではなく、実感がこもった平易な語り口に、ときに軽いジョークも入って、耳にすっと入ってきます。といっても、その話は実はとても怖いことだらけなのです。
著者は2012年にアフリカの南スーダンとジブチに現地取材しています。
ジブチには自衛隊の拠点基地があり、拡張されています。初めは、アデン湾に出没する海賊対処が任務でした。ところが、実は海賊が出なくなって久しいのです。でも、自衛隊は撤退しない。それどころか基地を拡張している。なぜか・・・。
いま、アフリカ大陸にアメリカ軍は存在しない。ソマリアでの大失敗にこりてアメリカ軍はアフリカに派兵できない。そこを狙って、中国がアフリカに続々と入りこんでいる。一帯一路の政策で、人もカネもアフリカにつぎ込んでいる。中国はアフリカに対して、貿易・投資・ODAの三本柱で貢献し、援助額の9割を占めている。アフリカ全体で100万人の中国人がいるという。日本は、そんな中国に対して、アメリカの先兵としてアフリカで活動することが期待されている。だから、ジブチから日本の自衛隊は撤退することができない。
2016年10月、稲田朋美防衛大臣が南スーダンを視察した。実は、このとき、現地の南スーダンに稲田大臣がいたのは正味7時間のみ。現地で武力衝突が起きた地域を見事に回避して行動した。そして、稲田大臣は日本に帰国して、現地の情勢は比較的落ち着いていると発表した。ところが、国連の専門家たちは、3ヶ月の調査結果、スーダンの治安悪化は著しいと判断した。
なぜ、こんなにまでして自衛隊のスーダン派遣に安倍政権がこだわるのか・・・。
それは、安保法制下の実績づくりだった。なにがなんでも安保法制を有名無実の法としないため、安倍政権は現地の情勢などおかまいなしに自衛隊を南スーダンに派遣したのだった。
だから、日報を「戦闘」から「衝突」に書き換えるのに、防衛省のトップには抵抗がなかった。
自衛隊員の士気をあげるため、安倍首相は憲法に自衛隊を明記したいと言います。大規模災害のときに重機を駆使する自衛隊員の姿を見て拍手している国民が多いと思います。もちろん、私もその一人です。でもでも、自衛隊員がアフリカや中近東で戦争に巻き込まれ、殺し、殺されるのを見たい人は誰もいないと思います。
著者は自衛隊を憲法に明記したら、日本は完全な軍事優先国家になり、人権も自由も尊重されなくなると訴えています。まったく同感です。
タイムリーな本です。ぜひとも多くの人に読んでほしいものです。
(2018年8月刊。1900円+税)

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