弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年11月 6日

家庭裁判所物語

司法


(霧山昴)
著者 清水 聡 、 出版  日本評論社

敗戦後まもなくの日本で家庭裁判所がつくられスタートしていく日々を温かいタッチで描いていて、読むと心も温まります。
宇田川潤四郎、内藤頼博、三淵嘉子らは、家庭裁判所第一世代の裁判官たちだった。それぞれの理想とする司法の姿を胸に、人も物も足りないなか道を切り拓いて、家裁をつくりあげた。第二世代は、初代の苦労を間近で見て、家庭裁判所の理想主義の空気を胸一杯に吸い込んで成長していった。
そのスローガン(標語)は、「家庭に光を、少年に愛を」だった。
「家裁の5性格」とは何か・・・。
家庭裁判所は独立的、民主的、科学的、教育的、社会的性格を具有している。
ところが、これに対して裁判官は裁判をするのが仕事であって、裁判所は教育機関、福祉機関ではない。このような反発があった。
少年部の調査官を当初は「少年保護司」と呼んでいたことを初めて知りました。
戦後まもなくは、戦災孤児が浮浪児になっていることが大きな社会問題になった。
昭和24年(1949年)には少年による刑法犯の検挙者が11万人をこえた。このうち8万人の罪名は窃盗だった。このころ、少年院に収容されている少年は3千人に満たなかった。そのうえ、逮捕・収容しても半数以上が逃走していた。
家庭裁判所といっても、庁舎がない、電話もない。車どころか自転車もない。参考書もない。鑑定してもらっても謝礼金を支払うお金がない・・・。まことに大変な状況だった。
家裁調査官研究所の所長に内藤頼博が就任すると、講師は「一流」ではなく、「日本一」だった。たしかに、そうです。
憲法は宮沢俊義と佐藤功、刑法は平野龍一、法社会学が川島武宜、社会保障論が大内兵衛。そして、歌舞伎役者の尾上梅幸、演出家の千田是也、など・・・。
圧倒される豪華な顔ぶれです。
そして、この家裁調査官研修所には一人も裁判官を配属しなかったというのです。信じられません。単なる教師と生徒の関係になってはいけないという考え方からでした。すごい発想です。
いま、一般民事事件が増えず、横バイか減少しているなかで、家事事件だけは急増しています。これは、私の実感でもあります。
人間関係がドライになったというのか、なんでも金銭的評価が優先するおかしな風潮が蔓延しているのに、私個人としては心が痛みます。だけれど、その反面、弁護士として仕事を真面目にやれば食べていける状況でもあります。家庭裁判所の役割は、これからはこれまで以上に大きくなると思います。
(2018年9月刊。1800円+税)

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