弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年10月31日

弁護士はBARにいる

司法

(霧山昴)
著者 前岨 博 、 出版  イースト・プレス

私は久しく「バー」なるものに行ったことがありません。若いころにはスナックにもクラブにも、そしてたまにバーに行ったことがありました。宴会のあと、若者たちが先輩に率いられて、ゾロゾロと二次会、三次会に流れていったのです。そして、当然のように先輩弁護士が勘定をもってくれていました。今では、ちょっと考えられない光景ですよね。先輩が後輩を誘うことはまれにありますし、少しだけ余計に負担することはあっても、「全額おごり」だなんて、考えられません(少しとも私には・・・)。
それはともかくとして、この本では、バーのカウンターの内側にいる男性が客の悩みに的確なアドバイスをするという趣向です。そのアドバイスは明確です。それは危いからやめたほうがいい、それは大丈夫だ、問題ない、このようにきっぱり小気味良く断言します。もちろん、そのあと解説が続きますので、納得もします。
たとえば、従業員の横領が発覚して頭をかかえている社長に対して、何と言ったか・・・。
「法的見地から申し上げると、現段階で警察に駆け込むのは、早計というもの」
このアドバイスには、私も、まったく同感でした。民事、刑事、処遇、会社の組織・システム、それぞれの問題についてよく整理しておくことが先決。警察は、すぐには動いてくれない。そして、懲戒解雇ではなく、諭旨解雇にして、支払うべき退職金を賠償金に充てるという解決法がある。
この点は、私も同じように処理したことがあります。
有力な従業員が競争相手の同業者に引き抜かれてしまった。さあ、どうしたらよいか・・・。
「法的見地からすると、残念ながら、その同業同社を訴える条件はそろっていないと考える」
従業員を、退職したあとまで、競業避止(きょうぎょうひし)業務でしばることはできない。例外的に、事前に競合禁止の誓約をとっていると、限定的に認められることはある。それでも、営業秘密をもらして元の会社に損害を与えたという事実の主張・立証ができないと、損害賠償が認められる可能性は小さい。
著者の名前は、「まえそ」と読むそうです。200頁ほどの新書版サイズの手頃な本です。バーでのやりとりを通じて、悩める社会の法律トラブル対策が書かれていて、気楽に読み通せました。
(2017年11月刊。1100円+税)

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