弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年10月26日

取調べのビデオ録画

司法

(霧山昴)
著者 牧野 茂 ・ 小池 振一郎 、 出版  成文堂

今市(いまいち)事件の判決には驚かされました。裁判員をふくむ裁判所が録画されたビデオ映像を見て、被疑者の様子から有罪の心証を得たというのです。
これは、とんでもないことです。いったい、何のために取調過程を録音・録画するのか・・・。それは取調過程の透明化、つまり、密室での取調べのとき、被疑者に対して不当な追及、違法なことが行われないように監視するためのものなのです。
ところが、実質証拠として機能してビデオ映像が使われ、有罪の証拠になりました。そうなると、調書を証拠採用して判断するという、いわば調書裁判を強化する方向へ、取調室を法廷としかねない方向に行ってしまいます。
ビデオ録画するときには、本来の目的からするならば、むしろ取調にあたっている捜査官の態度・表情こそ録画の対象とすべきです。せめて、取調室を横からビデオ録画して、被疑者がウソを言ってるのかどうかなど、見た人が考えられないようにしたほうがいいのです。
お隣の韓国では、ビデオ録画は実質証拠として利用することを禁止している。また、弁護士は取調での際に被疑者のそばに立ち会える。
ところが、日本では依然として弁護士立会は認められていません。
ビデオ録画が実質証拠に使われると、皮肉なことに、公判中心主義ではなく捜査取調べ中心主義になってしまう恐れがある。
先進国で弁護人立会権の保障がないのは日本だけ。有罪無罪の判断のためには、悪性格証拠は使わないようにとルール化されている。ビデオ映像をみたら錯覚はまちがいなく起きる。この影響を与える可能性を完全に払拭することはできないが、この危険性を減少させるためのものが、せめて横から操るという方法なのである。
なるほど、そうだったのかと思わず、うなってしましました。まさしくタイムリーな本です。
(2018年8月刊。2000円+税)

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