弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年10月21日

手塚番、神様の伴走者

人間


(霧山昴)
著者 佐藤 敏幸 、 出版  小学館文庫

手塚治虫とは、天才というより神様ですよね。60歳で亡くなったのが、本当に残念でたまりません。
この本は、手塚治虫を担当した編集者たちへのインタビューから成っています。いわば、天才というか神様の実像をあばき出したような本なのですが、本当に憎めない神様の実体の一面を知ることができます。車中で読みふけってしまい、乗り過ごしを警戒しました。
横で見ていると、手塚さん、わがままだし、やきもち焼きだし、原稿遅いし、約束守んないし、「こんな野郎とは、1日でも早く別れたい」と思う。でも、遠く離れてしまうと、富士山ではないけれど、その高さ、姿の美しさが分かる。
手塚さんの記憶力は、直感像という、デジカメと同じで、思い出そうとすると、原稿のどの場面でも、瞬時に、たぶん見開き単位で頭の中に出てくるのだろう。
原稿の催促のために、そばに編集者が山ほどいてくれるというのが、手塚さんのベストコンディションなのだ。
手塚さんは、平気でウソつくところがある。まあ、可愛げのあるウソなんだけど・・・。
手塚さんは、寂しがり屋だね。ずーっと自分のことを思っていて欲しい人なんだよね。
すべて自分の思いどおりに持っていくんだけど、ものすごく心の弱い人なので、担当者に相談する。「これでいいです」というコトバを聞きたいんだ。担当者がいいと言わない限り、できない。必ず聞いてくる。
原稿が遅いと、テヅカオソムシ。それでも着かないと、テヅカウソムシ。これが、デンポーの文言だった。うひゃあ、そ、そうだったんですか・・・。
手塚さんにしてみると、担当編集者がいないと、「何なんだ、ぼくだけ働かしておいて・・・」という気持ちになる。寝ずにやっていると、被害者意識が出てくる。だから手塚番は、手塚さんが起きているときは、絶対に起きている必要がある。
編集者は、描き手に気持ち良く描かせるのが、絶対条件だ。
手塚先生は、宇宙のかなたから地球にきて、使命を終えて帰っていったんだ・・・。
こんな弔電があったそうです。60歳にして、かぐや姫のように月世界か宇宙の果てに帰っていったのでしょうね。残念です・・・。
とても面白い文庫本でした。ありがとうございました。
(2018年6月刊。610円+税)

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