弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年9月17日

陰謀の日本中世史

日本史(中世・戦国)

(霧山昴)
著者 呉座 勇一 、 出版  角川新書

陰謀論は日本史でも、しばしば登場し、よく本が売れているようです。その陰謀論のインチキについて、学者が真面目に解説しています。
まず、頼朝と義経です。頼朝は、義経を鎌倉に召喚しようとしていた。鎌倉に来れば、義経を詰問、拘束できる。来なければ親不孝者として糾弾できる。義経の武勇は頼朝にとって脅威であり、軍事的衝突を回避しつつ、義経を屈服させる道を頼朝は探っていた。
次は、信長暗殺とイエズス会の関わりです。イエズス会日本支部の財政は逼迫(ひっぱく)しており、信長の天下統一事業に資金援助するような余裕は、まったくなかった。
本能寺の変が起きたとき、明智光秀は55歳でなく、67歳であり、秀吉48歳、勝家56歳。
みながみな人間不信になって身動きできない状況で、がむしゃらに前に飛び出した秀吉こそ異常だった。
信長は、対人間関係の構築は、お世辞にも上手とは言えない。他人の心理を読みとる能力がそれほどあったようには思えない。信長は、決して万能の天才ではない。弱点があり、隙(スキ)もあった。
光秀がおのれの才覚で信長を討ったことを、ことさらにいぶかる必要はない。
教科書には書いていない「歴史の真実」を売りにする本は多く、自分こそ歴史の真実を知っているという自尊心を陰謀論は与えてくれる。しかし、それだけのこと。インテリ、高学歴の人ほど騙されやすい。
なるほどなるほどと、目の覚める思いで読みすすめました。
(2018年3月刊。880円+税)

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