弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年9月11日

ゲッベルスと私

ドイツ

(霧山昴)
著者 ブルンヒルデ・ポムゼン 、 出版  紀伊國屋書店

ナチス・ドイツの宣伝相ゲッベルスの秘書をしていた女性が106歳まで長生きしていて、103歳のときに69年前のことを語ったのです。残念なことに私は映画を見逃してしまいました。だって、朝8時半から始まる映画なんてそう簡単に見れませんよね・・・。
103歳ですから、まさしく梅干しのようにしわの多い顔です。30代のころの選ばれし女性秘書の姿を想像して結びつけるのは、とても困難です。
何も知らなかった、私には罪はないというトーンで語られます。でも、彼女にはユダヤ人女性の親友がいて、いつのまにか行方が分からなくなっています。そして、どうやらユダヤ人男性の恋人もいたようです。
白バラ事件のことが少しだけ語られますが、もともと政治に関心のない彼女は深く知ろうとはしなかったようです。つまり、知ろうと思えばユダヤ人大虐殺が進行していることを詳しく知りえる位置にいたけれど、自分の身の安全を第一に考えると、余計なことは知らないように努めるのが一番。そういう処世術で生きのびたようです。
それは、ベルリンがソ連軍によって占拠(占領)されるときも、最後まで宣伝省の地下室にいたことからも裏付けられるのでしょう。彼女は地方に逃げる機会はあったのに、ベルリンへ戻ってきたのです。
彼女がナチ党の党員になったのは、国営放送局で仕事するためだった。ナチ党という運動には無関心でゲッベルスの演説もさめた思いで聴いていた。
彼女は速記の技術を見につけていた。ユダヤ人で高級衣料品店を営む人の下で彼女は2年のあいだ働いた。そのあと、ユダヤ人で保険の仕事をしているところでも彼女は働いた。
1933年以前には、ユダヤ人のことが頭にあった人は、ごくわずかだった。人々の最大の関心事は、仕事とお金を得ること。1933年より前は、誰もとりたててユダヤ人について考えていなかった。あれは、ナチスがあとで発明したようなものだった。
ナチズムを通じて私たちは初めて、あの人たち(ユダヤ人)は私たちと違うのだと認識した。何もかも、ナチスによってのちに計画されたユダヤ人殲滅(せんめつ)計画の一部だった。
私たちは、ユダヤ人に敵意など持っていなかった。父さんは、むしろ顧客にユダヤ人がいることを喜んでいた。彼らはいちばんお金持ちでいつも気前が良かったから、私はユダヤ人の子どもたちと遊んでいた。
ヒトラーが政権を握ると、たくさんのものごとが突然良いほうに変わった。人々は単純に、こう言うしかなかった。やあ、これはなかなか素晴らしいじゃないか、と。
ともあれ、最初の数年は、そしてオリンピックのころまでは、ドイツは素晴らしい国だった。ユダヤ人の迫害は行われておらず、万事がまだ順調だった。
白バラ事件について・・・。あの事件の首謀者は、あまりに若かった。まだ、学生だった。即座に処刑するなんて残酷すぎた。誰も、そんなことを望んではいなかった。でも、あんなことしでかすなんて、それは彼らが愚かだった。黙ってさえいたら、今ごろきっとまだ生きていたのに・・・。それが普通の人々の見方だった。
「ノー」を言うことはできなかった。「ノー」と言うのは、命がけのことだった。人々は、自分のことばかりにかまけていて、貧しい人々のことにいつもは思いが至らなかった。
近所では、ユダヤ人が消えるという事態は、まだ起きていなかった。でも、いったん始まったら、あっというまだった。
ゲッベルスにとって、秘書は部屋の中にある家具や机と同じだった。秘書を女だとすら見ていなかった。スターリングラードでの陸軍の敗北が、ターニングポイントだった。万事が困難になった。
これが恐ろしい戦争だということは、みんな分かっていた。そして、この戦争は不可欠なのだと私たちは教えられていた。国民のために、そして世界中から敵視されているドイツの存続のために、不可欠な戦争なのだと教えられてきた。
宣伝省の仕事の大半は、前線や帝国内で起きているありのままの事実を粉飾することに関連していた。事実は、国民の目にポジティブに映るように、指示にもとづいて修正されていた。
戦争の末期、迫りつつあるソ連軍の背後にヴェンク軍が回り、不意打ちを食らわせるはずだと、まだ信じていた。ナチスが権力を握ったあとでは、国中がまるでガラスのドームに閉じ込められたようだった。私たち自身がみな、巨大な強制収容所のなかにいた。ヒトラーが権力を手にしたあとでは、すべてがもう遅かった。
ポムゼンの話を聞いていると、共感や連帯意識の低下、そして政治への無関心こそが、ナチスの台頭と躍進を許した要因の一つであることがよく分かる。
ええっ、これって現代日本とまったく同じことですよね。クワバラ、クワバラ・・・。早いとこ、嘘つき政権に引導を渡しましょう。
(2018年7月刊。1900円+税)

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