弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年8月31日

ホロコーストの現場を行く

ヨーロッパ(ポーランド)

(霧山昴)
著者 大内田 わこ 、 出版  東銀座出版社

ポーランドには、ナチスがただユダヤ人を殺す、それだけのために建て、計画が終わったら事実を消すために、すべてを取り壊した絶滅収容所がある。そこで200万人のユダヤ人を殺した。
ナチスは肉体的に殺しただけでなく、ユダヤ人がこの世に存在していたという事実をも消そうとした。しかし、彼らすべてに名前があった。家族もいれば、生活もあった。未来もあったのだ。そのすべてが一瞬にして葬り去られた。
ところが、このひどい歴史がいまだに広く知られていない。
ナチスは200万人をこえるユダヤ人をガス殺した。そのあと、施設をすべて破壊して更地にした跡に樹木を植えて、殺戮の跡をきれいに消し去った。だから、アウシュヴィッツのような引込み線、ガス室跡は何もない。
著者は、そこへ出かけ、虐殺を感じとるのです。
ベウジェツ絶滅収容所で虐殺された50万人のうち、脱走に成功したのは、わずか5人のみ。その一人が体験記を書いている。
移送は、毎日、1日も絶えることはなかった。1日に3回、1列車は50車両、1車両に100人が詰め込まれていた。ナチスの隊長が大声で叫ぶ。
「きみたちは、これから浴場へ行く、それから仕事場に送る」
人々は、瞬間、うれしそうになる。仕事に就けるという望みから、目が光った。しかし、実際には裸にされてガス室へ追いたてられ、たちまち苦悶死に至る。
「ママ―、ぼく、いい子にしていたよう。暗いよう、暗いよう・・・」
なんという叫びでしょうか・・・。
ユダヤ人を放っておくと、優秀なアーリア人(ドイツ人)が逆に絶滅させられるという危機感をヒトラーたちはあおっていたのでした。ひどすぎます。
アウシュヴィッツ強制収容所に音楽隊がありましたが、ベウジュツにも音楽隊があったようです。アコーディオンをかかえた人、バイオリンを弾いている人、トランペットを吹いている人などがうつっている写真があります。これらの人々も、きっと殺されてしまったことでしょう。
決して忘れてはいけない歴史です。日本から現地に行った人がとても少ないようで、心配です。といっても、残念ながら私も行ったことはありません。
(2018年6月刊。1389円+税)

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