弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年8月21日

前川喜平「官」を語る

社会

(霧山昴)
著者 前川 喜平・山田 厚史 、 出版  宝島社

文科省の前事務次官だったわけですが、なぜ在職中からモノを言わなかったのかと詰問されることがあるそうです。これに対して、著者は率直に申し訳なかったと謝ります。でも、たった一人では何事も出来なかっただろうと、付け足しをつぶやくのです。まったくそのとおりです。いま、勇気ある発言をしている人に対して、ないものねだりをしてはいけないと私は思います。
なぜ在職中に、官邸と戦わなかったのかという批判がある。それは、まったくそのとおりで、私はその批判を受け止めなければならないと考えている。ただ、もし戦いを挑んだとしても、官邸の強大な権力に対して、一役人に過ぎない者にできることはほとんどなかっただろう。
退官していろいろ話しているので勇気があると言ってくれる人もいるけれど、自分は勇者でも何でもない。
官僚は、政治の力に100%屈するのではなく、折り合いをつけながら何とか前へ進んでいく。それしかない。「右へ行け!」と言われて、明らかにおかしいと思ったら、90度ではなく、60度くらいの角度で右に進む。また、風向きが変わったときに60度くらい左に進む。ジグザグに進みながら、何とか形を守る。それが多くの官僚の生き方だろう。
不本意な状況に甘んじるしかない自分がいたとしても、必ずいつかは挽回するんだという気持ちを持つか持たないかで、長い年月のあいだ仕事をすれば、ずいぶん大きな違いが出てくると思う。
安倍首相のウソは明らか。それは、野球にたとえたら、10対0の大差がついている試合なのに、負けている側が、「そろそろ時間もないし、続けても意味がないから、ここで引き分けにしよう」と言っているようなもの。これでは、とても引き分けにはならない。
安倍首相は、「これまでの答弁は、すべてウソでした」と言えないので、新しい証拠が出てくるたびに虚偽の答弁を重ねるしかない。
安倍政権は、それらしき言葉を作るのがうまい。でも、みんな虚構。
安倍首相は、詭弁を正当化するために、「前川前事務次官ですら、そう言っている」なんて、言うのは本当にやめてほしい。本当にそうですよね。
いまの状況は政治主導でもなんでもない。事実でないことを平然と強弁して物事を進めてしまっているだけで、政治と行政を私物化している。明らかに歪んでいる。
こんな気骨のある官僚がいたからこそ、日本という国はもってきたのですね。政治と行政を私物化していると指弾されている安倍首相には、そのコトバどおり、首相だけでなく、議員もすぐにやめてほしいです。
福岡の本屋で平積みされているのを見つけて、そのまま喫茶店ですぐに読了しました。
(2018年7月刊。1380円+税)

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