弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年8月18日

鉄道人とナチス

ドイツ


(霧山昴)
著者 鴋澤 歩 、 出版  国書刊行会

ナチス・ドイツのユダヤ人大量虐殺を可能にした有能な道具はドイツ鉄道でした。
そのドイツ国鉄総裁を長くつとめていたユリウス・ドルプミュラーに戦争責任はないのか、そんな問題意識で書かれた本です。
本人は、戦後まで生きのびて、ユダヤ人大量絶滅作戦なんて知らないと言い通したようです。そんなはずはありませんよね・・・。
ユダヤ人迫害は、その資産の略奪・没収する側にまわった人間にとっては、決して不合理でも非経済でもなかった。
ドルプミュラー総裁以下のライヒスバーンは、組織全体としては、基本的に受け身で場当たり主義的な対応に終始した。結果的には、組織内外のユダヤ人への迫害を重ねたが、輸送という鉄道業本来の業務によって大量虐殺への直接的関与を大々的におこなうには、やはり第二次世界大戦の勃発という契機が必要だった。
ドルプミュラーたちは、ユダヤ人大虐殺の事実を知っていながら、知らないふりをし、ユダヤ人という他人の運命に無関心を通した。
ドルプミュラーは、ユダヤ人虐殺について、くわしいことは何も知らなかった。都合の悪い事実は、すべて忘れることにした。
列車によるユダヤ人移送のピークは1942年だった。本数にして270本、14万人が移送された。狭い車両に押し込められ、ものすごい密集状態で運ばれたという体験、それだけが生き残った犠牲者の思いだせることだった。
まさしく、隣は何をする人ぞ、という世界へいざなっていきます。
ナチスとドイツ官僚とのあいだに若干の矛盾があったことは間違いないでしょう。しかし、ヒトラーのユダヤ人絶滅に手を貸した責任はやはり免れないものです。
(2018年3月刊。3400円+税)

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