弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年7月27日

風は西から

社会

(霧山昴)
著者 村山 由佳 、 出版  幻冬舎

巻末の参考文献の一つに『検証ワタミ過労自殺』(岩波書店)があげられていますので、ワタミが経営する居酒屋の店長が過労自殺をしたことをモデルとした小説だと推察しました。
それにしても、過労自殺する人の心理描写はすごいです。驚嘆してしまいました。
なるほど、責任感の強い真面目な若者が、こうやって自分を追い込んでいくんだろうな、辛かっただろうな・・・と、その心理状況は涙なくしては読めませんでした。
でも、この本に救いがあるのは、彼の両親と彼女が全国的に有名な居酒屋チェーンに立ち向かい、苦労して過労自殺に至る経過を少しずつ明らかにしていき、労災認定を勝ちとり、ついには社長に謝罪させ、相応の賠償金も得た経緯も同時に明らかにされていることです。そして、その勝利には我らが弁護士も大いに貢献しているのでした。世の中には、苦労しても報われないことも多いのが現実ですが、苦労は、やはり報われてほしいものです。
辞めていった店員を店長が率先して悪く言う。完全な人格否定だ。なぜ、そうするか。必要だからやる。辞めていった奴を、今いる人間にうらやましいとか賢いと思わせたら終わり。みんな、後に続いて辞めていき、使える奴なんて誰もいなくなってしまう。だから、残ってる奴に、辞めることは無責任で、はた迷惑で、最低最悪の選択だってことをとことん刷り込んでおく。そして、たまに、おごってやって誰かの悪口を言わせると、いい具合のガス抜きにもなるし・・・。なーるほど、そういうことなんですね。
テンプク。店長が全体のコントロールを誤って赤字を出してしまうこと。
ドッグ。毎週土曜日の本社での定例役員会議に店長が呼び出されること。役員の前で、なぜテンプクしたのか報告する。中身は、吊るし上げ。言葉のリンチ。どれだけ説明しても、まともに聞き届けてもらえない。何を言っても、店長としての自覚や努力が足りないことにされてしまう。揚げ足をとられたり、あからさまに挑発されたり・・・。
土曜日の朝のドッグ入り。土・日は忙しい。下準備が必要。少しでも寝ていたい。それが分かって呼びつける。こんなに不名誉で、面倒で、体力的にもとことんきつい日に二度とあいたくなければ、自分の無様なテンプクぶりを反省しろってこと。つまりは、見せしめ。
「正確なデータもなしに、なんでもいいから成績を上げろなどという無茶は言っていない。常識的なラインに、あと少しの挑戦や努力があれば達成できる範囲のプラスアルファを加味して、無理なく設定された売上目標・・・。要するに、会社が店長に望むのは、ある程度の強固な意志さえあれば、今後実現可能な目標を、毎日、着実にクリアすることだけ。じつに簡単なことだ」
このように理詰めで言われるのです。店長は売上が良くないときには、人件費を減らすため、パートを早く帰らせ、自分のタイムカードを早く帰ったようにして、実際には店に泊まりこんでしまうのです。
安倍政権の「働きかた改革」というのは、結局のところ、このような過労自殺を助長するだけだという批判はあたっているとしか言いようがありません。
「カローシ」が世界で通用するなんて、不名誉なこと、恥だと日本人は自覚しなくてはいけません。
(2018年3月刊。1600円+税)

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