弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年6月25日

新・冒険論

人間


(霧山昴)
著者 角幡 唯介 、 出版  インターナショナル新書

私は冒険をするような勇気は、これっぽっちも持ちあわせていませんが、冒険物語をハラハラドキドキしながら読むのは大好きです。
探検は、システムの外側にある未知の世界を探索することに焦点をあてた言葉。冒険はシステムの外側に飛び出すという人間の行動そのものに焦点をあてた言葉。
探検は土地が主人公の言葉で、冒険は人間が主人公の言葉だ。
冒険とスポーツとは、本質的に完全に対極に位置する行為だ。冒険には未知で予測不可能な世界に飛び込むという点が注目される。スポーツは、競技場という名の、舞台の整った場でおこなわれる行為だ。
著者は、冒険というものを自らの経験をベースに、現在の時代状況と照らしあわせて論じることのできる日本で唯一の人間だと自負していますが、まさしくそのとおりだと私も思います。だって、あとで紹介する著者の本を読めば、疑いようもありませんから・・・。
本多勝一は、①明らかに生命への危険をふくんでいること、②主体的に始められた行動であること、この二つが満たされたら、その行動は冒険だと言えるとした。
本多勝一は、朝日新聞の有名な記者で、私も、たくさんの本を読みました。
エベレスト登山は、いまや冒険とは認められない。なぜなら、エベレストに登りたい希望者が、熟練したガイド登山家が主催する隊にお金を払って参加するという、いわば商業ツアー登山の形をとっているから。登山客は定められたマニュアルにそった行動を指示される。公募登山の参加者は、自分の力で山に登っているわけではない。このエベレスト・ツアーに足りないのは無謀性である。
北極点を目ざすような極地旅行者は、ほぼ全員がGPSを持って行動している。使っていないのは、著者くらいだろう。
このコーナーで先に取りあげた『狼の群れと暮らした男』(築地書館)が紹介されていますが、この本は本当に驚くべき冒険にみちみちています。だって、文明人の大人がオオカミ(狼)の群れに近づき、ついには、その一員として認めてもらったというのです。その過程のすさまじさは圧倒的で、まさしく声を呑み込んでしまいます。
そして、もう一人は服部文祥の『サバイバル登山』です。これまた、大雪に閉ざされた冬山で一人、黙々と登山を敢行していくという苛酷すぎる体験記です。なにしろ、テントなし、コンロなし、食料は自給という生活を山中で続けていくのです。
そして最後に、先日よんだばかりの『極夜行』(文芸春秋)です。80日間、ほとんど真暗闇の極夜を過ごしていく極限の状況には声を呑み込むしかありません。
欧米人は単独行を避ける傾向にあるが、日本人は積極的に単独行をする。日本人は自然の本源に深く入り込むこと、生の自然に触れて、畏れおののくこと、結果以上に課程の充実を重視している。
冒険者は、自由状態をできるかぎり享受するため、あえて安全性を犠牲にしたり、緻密に計画することを放棄したりする。
なるほど、冒険って、そういうことなのか・・・。とても私には出来ないことだと再認識させられました。でも、自分が出来ないからこそ、こういう本を読むのは大好きなのです。
(2018年4月刊。740円+税)

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