弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年6月10日

老いぼれ記者魂

社会(司法)

(霧山昴)
著者 早瀬 圭一 、 出版  幻戯書房

昭和48年(1973年)3月、青山学院大学の春木教授は教え子の女子大生に対する強姦罪で逮捕された。私は、このとき司法修習生として、横浜にいました。かなりインパクトのある事件として覚えています。「被害者」の女子大生は、この本によると私と同学年のようです。
 女子大生はアメリカ留学を夢見て春木教授に近づいています。二人の間に性行為があったことは争いがなく、強姦があったのか、合意による性行為なのかが争点の事件です。ところが、不思議なことに3回あった事件のうち、最後の3回目だけは無罪とされたのでした。もちろん、それもありえないわけではないでしょうが、では1回目も2回目も、本当に合意ない性交渉だったのか・・・。この点について、この本は執拗に当時の関係者に迫って真相を明らかにしようとするのです。
これは実刑となって出獄してきた春木教授の執念でもありました。当然のことながら元「被害者」は取材を拒否します。でも、そこに、何か不自然さがある・・・。著者はあくまで真相を求めて、歩きまわります。さすがは元新聞記者(ブンヤ)です。
この事件は当時の青山学院大学内の権力闘争を反映しているようです。春木教授を引きずりおろそうというグループがあったのでした。
被害者の女子大生は、法廷で春木教授から直接質問されたとき、こう応えました。「ケダモノの声なんて聞きたくもないです」。
この裁判で異例なのは、一審で論告も求刑も終わったあとに、なんと裁判所が被害女性を尋問しているということです。
そして、春木教授のせいで人生を破滅させられたはずの被害女性は、中尾栄一代議士(自民党)の私設秘書として活動していたのでした。この本を読むかぎり、たしかに被害者とされる女子大生の言動には、あまりにも不可解なものが多いように思いました。
それでも、春木元教授は今から24年も前に亡くなっています。にもかかわらず、事件の真相に迫ろうという記者魂の迫力に圧倒されました。
(2018年4月刊。2400円+税)

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