弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年6月 2日

古稀のリアル

人間

(霧山昴)
著者 勢古 浩爾 、 出版  草思社文庫

私と同じ団塊世代の著者が、70歳になって何が変わったか、これからどう生きていくのかを、他者との比較で、あれこれ考察している愉快な本です。私自身はまだ古希にはなっていません。60代なのです。といっても目前に迫ってはいるのです。
すでに少なからぬ同級生がこの世とおさらばしています。現役弁護士として、それほど深刻ではありませんが、頭をふくめて老化現象を痛感することはしばしばです。
著者はさかなクンの天真爛漫ぶりを大いに評価しています。ハコフグの帽子をかぶってテレビ(たとえば『ダーウィンが来た』)にしばしば登場します。「好きなこと、夢中になれる何かがあると、毎日がワクワクでいっぱいになる。もっと知りたいという探究心が出てくる」。ほんとうにさかなクンの言うとおりですよね。
そして、二人目は前野ウルド浩太郎(『バッタを倒しにアフリカへ』の著者)です。秋田育ちの昆虫少年がアフリカ大陸でバッタ退治に乗り出す様子には著者だけでなく、私も言葉を失うほど圧倒されました。昆虫オタクの香川照之もいますよね。この人もまたすごいです。
本好きの人のなかに、いま読んでいる本を読み終わりたくないという人がいる。その気持ちは、よく分かる。本は読んでいるあいだが愉しい。その物語のなかにいる時間こそ、何物にも代えがたい。だから、またすぐに最初から2回目を読むという人もいる。しかし、著者は、そんなことはしない。別の新たな愉しみを求め、別の本を読む。
そうなんです。絶えず新しい出会いを求めるのです。その出会いがときにあるからこそ、世知がらい世の中を生きていられるのです。
読みかけている、その先を早く読みたい。これが面白い本の条件である。まったくもって、そのとおりです。
著者は私とちがってテレビ好きだそうです。ところがドラマはほとんど見ていません。もっともらしく、わざとらしく、ウソくさく、あざとくて、うっとうしいからだ・・・。
私は、テレビのドラマは全然みません。そのため「おしん」とか「大地の子」など、見逃してしまった残念な番組がいくつもあります。
70歳になったからといって大騒ぎする必要はまったくありません。それでも、いよいよ終末期を迎えようとしていることを自覚させられる本ではありました。
(2018年2月刊。700円+税)

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