弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年5月31日

宿命

社会

(霧山昴)
著者 原 雄一 、 出版  講談社

今から23年前(1995年)、警察庁長官が東京の高級マンションにある自宅から出勤しようとするところを狙撃され、瀕死の重傷を負いました。しかし、世界一優秀なはずの日本の警察は狙撃犯を逮捕・起訴して有罪に持ち込むことが出来ませんでした。そして、時効が成立して事件は迷宮入りとなったのです。
この本は、その捜査に従事していた幹部警察官が犯人を名指しして、真相を「解明」しています。読むと、なるほど、その人物が狙撃犯らしいと思わせるのに十分です。
では、なぜ狙撃犯は逮捕・起訴されなかったのか・・・。警察内部の公安と刑事との暗闇があり、公安優先の捜査が間違ってしまったのだと、刑事畑を歩んできた著者は繰り返し強調しています。
公安警察は、警察庁長官を狙撃して殺そうとするのはオウム真理教しかいないと盲信し(決めつけ)、オウムの信者だった警察官が犯人だと発表し、それが立証できなくなってからもオウム犯人説を記者発表したので、オウム真理教から名誉棄損で訴えられて敗訴している。
ここまで来ると、公安警察って、まともな神経をもっているのか疑わざるをえませんね・・・。
では、オウム真理教ではない一個人が20メートル離れたところから、人間の身体に3発もの命中弾を撃てるのか、誰が、どこで、そんな射撃の技能を身につけたというのか・・・。
日本人が、日本で、そんな技能を身につけるなんて、ほとんど不可能ですよね。ですから、犯人はアメリカへ頻繁に渡って射撃練習を繰り返していました。もちろん、高性能の銃もアメリカで購入しています。
歩いて移動する生身の人間に対し、射撃の素人が、21メートル離れた距離から3発の357マグナム弾を的確に撃ち込むのは不可能なこと。いかに高精度の拳銃を使おうとも、拳銃射撃はメンタルのコントロールがとても難しい。しかし、これを克服できなければ、正確に命中させることはできない。
「犯人はオウム真理教だ」(公安)、「犯人は中村泰だ」(刑事)などと罵りあって、結局、事件を解決できずに公訴時効を迎えてしまった警視庁。この捜査は迷走してしまったから、一般市民には滑稽なものとしか映らない。
警察庁長官という警察の親玉をやられて、その犯人をあげられなかったというのですから、日本の警察も「世界一」だとはもう言えないんじゃないでしょうか。
犯罪をなくすには市民連帯の力を強め、若者たちが明るく、未来をもって生きていける社会にしていくこと、これなしにはありえませんよね。それにしても、いまなお辞職しないアベ首相の見えすいたウソにはたまりませんね。ストレスがたまります。
(2018年3月刊。1600円+税)

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