弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年5月21日

サルは大西洋を渡った

生物


(霧山昴)
著者 アラン・デケイロス 、 出版  みすず書房

私が大学生のころ、プレートテクトニクス理論が出てきて、まさか、大陸が動くだなんて考えられないと厳しく批判されていました。アフリカ大陸と南アメリカ大陸が昔はくっついていただなんて容易に信じられることではありません。ところが、今ではそれがまったく定説になっています。そして、大陸を動かすのは、地中深いところのマグマが地表面に吹き出してきて、大陸を少しずつ動かしているというわけです。
地上の大陸が動き、それぞれ別の大陸に分かれていくと、もともと一種だった動植物が、それぞれに独自の変化を遂げていくことになります。
これを頭のなかで観念するだけでなく、現実の動植物をじっくり観察して、間違いないと確かめたのですから、さすが学者は偉いです。
たとえば、ニュージーランドやニューカレドニア島は、かつてジーランディア大陸の一部であり、この大陸が海底に沈み込んでしまったあと、海上に残った島なのです。今から2500万年も前の出来事でした。
ジャガイモは、南アメリカのペルーで先住人が今から4000年も前に野生の原種をつくりかえて栽培したもの。インカ帝国は、ジャガイモを労働者や軍隊のエネルギー源とした。ヨーロッパにジャガイモが入って来たのは1550年代。初めは有毒植物と思われたが、1800年まではジャガイモ栽培は北ヨーロッパ全域に広がった。
アイルランドでは、小麦栽培が難しかったので、1600年代半ばにジャガイモ栽培がはじまった。その結果、人口爆発が起きた。1600年代初頭の人口150万人が200年後には800万人の人口をかかえるまでになった。ところが、1840年にジャガイモの病気が広がり、収穫の4分の3が台無しとなった。そのためアイルランドでは貧しい人々の主要な栄養源が失われ、3年間で100万人もの人が餓死、病死した。そのため200万人もの人々がアイルランドを逃げ出した。そのうちの50万人はアメリカに渡った。暗殺されたケネディ大統領もアイルランド系でしたよね・・・。
19世紀にロシアやドイツが世界の列強として台頭したが、それを支えたのがジャガイモだったと言ってよい。
ところで、訳者あとがきを読んで驚きました。著者の父親一家は、第二次世界大戦中に、アメリカ各地につくられた日系人の強制収容所に入れられたとのこと。母方の祖父母は、日本からの移民、父方の祖母も日系二世とのことなのです。世界は広いようで狭くもあるということなんですね・・・。
(2017年11月刊。3800円+税)

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