弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年5月15日

つくられた恐怖の点滴殺人事件

司法

(霧山昴)
著者 阿部 泰雄 ・ 山口 正紀 、 出版  現代人文社

私の弁護士生活も45年となりましたが、残念なことに勇気ある裁判官、真実を直視しようとする気骨ある裁判官が本当に少ないと実感します。たまに出会うと感激ものです。
2001年に仙台で起きた「筋弛緩剤点滴殺人事件」が、実は何の科学的根拠もない警察による見込み捜査にもとづくものであり、警察とマスコミのつくりあげた「犯罪」だったことを明らかにした本です。
亡くなった小学6年生の女児は、その症状から筋弛緩剤中毒ではなく、別の急性脳症(ミトコンドリア病)だったというのです。ところが、医療の素人である裁判所が専門医の鑑定結果を受け入れないとは、いったいどういうことなのでしょう・・・。
そして、鑑定資料が警察鑑定によって全量消費されてしまって、残っていないというのにも驚かされます。これでは、追試ができません。警察による証拠隠し(いん滅)としか言いようがありません。
有罪が確定した守大助氏の父親は警察官でしたが、定年退職までつとめあげ、今では息子の無罪を訴えて、夫婦で全国をまわっているとのこと。すばらしいことです。
守大助氏は当初「自白」していますが、これを重視すべきではないのに、裁判所は鬼の首でもとったかのように考えています。まったくの間違いです。古今東西、やってない人が「自白」するのは、いくらでもあることです。その「自白」が客観的証拠と矛盾しないのかどうか、慎重に裁判所は検証していかねばなりません。
事件からすでに17年がたっています。裁判所には無罪の扉をぜひ開けてほしいと思います。私と同期の阿部泰雄弁護士の奮闘には心から敬意を表し、多くの人に一読をおすすめします。
(2016年12月刊。1700円+税)

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