弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年5月 9日

北朝鮮は「悪」じゃない

朝鮮


(霧山昴)
著者 鈴木 衛士 、 出版  幻冬舎ルネッサンス新書

文大統領と金委員長の会議が実現し、板門店宣言が発表されたことを私は心から歓迎します。何がうれしいかって、戦争の危険がひとまずなくなったことです。朝鮮半島で戦争が始まれば、ソウルが火の海になるだけではなく、日本列島だって壊滅し、どこにも住むところがなくなるでしょう。50ケ所以上の原発をかかえた日本列島は人質をとられているも同然なのです。にもかかわらず、これまでアベ政権は「圧力強化」一点張りできました。対話のための対話なんて無力だと言うだけでしたから、無責任きわまりありません。今回の米朝そして南北対話の前進のなかで、アベ政権(日本政府)は、まったくカヤの外、相手にされていませんでした。情けない限りです。こんな首相をもって恥ずかしいです。
この本は、アベ政権による「Jアラート」について、厳しく批判しています。まったく、同感です。この本の著者はついこのあいだまで航空自衛隊の情報幹部をつとめていましたので、その体験をふまえていますから、説得力があります。
「Jアラート」は、国民に誤った情報を流したことになる。実際に被害を受ける恐れがないに等しいにもかかわらず、交通機関を停止したり、市民に避難を求めたりして社会生活に支障を及ぼすような過剰な対応をとることは、国家の自損につながる。
政府による不正確な警報によって国民は北朝鮮に対する恐怖心や敵愾(てきがい)心をあおられ、このような民意に突き上げられた政府は冷静な外交・軍事判断ができなくなる可能性がある。
北朝鮮が敵愾心をあらわしているのはアメリカであって、日本ではない。なのに、Jアラートのような過剰反応、これに同調して敵愾心や恐怖心をあおるマスコミの報道姿勢は、正しくないだけでなく、国と国民に対して大きな悪影響を及ぼす。マッチポンプでの失敗につながり、対話によって平和的に解決するとい外交の機会を逃してしまう心配がある。
この本にも、北朝鮮がもし日本を狙ってミサイルを打ち込んだら、5回に1回はあたる可能性があるとしています。初めの1回は威嚇として山中に落ちるかもしれませんが、万が一、原発に命中したら日本列島は死の列島と化してしまいます。イージス・アショアなんて無用の長物、アメリカの軍需産業に日本人の貴重な税金をムダづかいするだけです。そんなことを専門家は承知のうえで、「北朝鮮脅威」論を無責任にあおってきました。罪深い人たちです。でも、彼らは利得のために無責任にあおっているのです。私たち国民は、もう目を覚ましましょう。
これは、何も北朝鮮の金正恩を助けようというのではありません。朝鮮半島で戦争がないこと、そして核兵器をなくしていくこと、これって大賛成じゃありませんか。板門店宣言をどうやって現実のものにするのか、どうしたらよいのか、そこに知恵を工夫しぼるべきです。
金正恩にだまされるな、そう叫んでいるだけでは何も解決しません。まさに、タイムリーな新書だと思いました。
(2017年12月刊。800円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー