弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年4月24日

日本の戦争、歴史認識と戦争責任

日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 山田 朗 、 出版  新日本出版社

大変勉強になる本でした。司馬遼太郎の『坂の上の雲』がまず批判されています。なるほど、と思いました。日露戦争は、成功の頂点、アジア太平洋戦争は失敗の頂点と、司馬は単純に二分してとらえている。しかし、実のところ、近代日本の失敗の典型であるアジア太平洋戦争の種は、すべての日露戦争でまかれている。
日露戦争で日本が勝利したことによって、日本陸海軍が軍部として、つまり政治勢力として登場するようになった。軍の立場は、日露戦争を終わることで強められ、かつ一つの官僚制度として確立した。
日露戦争において、日英同盟の存在は、日本が日露戦争を遂行できた最大の前提だった。日露戦争の戦費は18億円。これは当時の国家予算の6倍にあたる。そしてその4割は外国からの借金で、これがなかったら日本は戦争できなかった。そのお金を貸してくれたのは、イギリスとアメリカだった。
日本海軍の主力戦艦6隻すべてがイギリス製だった。装甲巡洋艦8隻のうち4隻も、やはりイギリス製で、しかも最新鋭のものだった。このように、イギリスが全面的にテコ入れしたため、日本海軍は世界でもっとも水準の高い軍艦を保有していた。
日本軍は、大陸での戦いでロシア軍に徹底的な打撃を与えることが常にできなかった。その最大の要因は、日本軍の鉄砲弾の不足にあった。
「満州国」のかかげた「五族協和」でいう「五族」とは、漢・満・蒙・回・蔵の五族ではない。日・朝・漢・満・蒙の五族だった。
満州国には、憲法も国籍法も成立しなかった。日本は国籍法によって二重国籍を認めていない。満州国に国籍法ができると、満州国に居住する日本人は、満州国民となるのを恐れた。というのは、日本国籍を有しているのに、「満州国」に国籍法ができると、満州国に居住する日本人は「満州国民」になってしまう。
アベ首相がハワイの真珠湾を訪問したときのスピーチ(2016年12月27日)についても厳しく批判しています。日本軍が戦争を始めたのは、ハワイの真珠湾攻撃ではなかった。それより70分も前に、日本軍はマレーシアで戦争を始めていた。日本軍にとって、ハワイは主作戦ではなかった。つまり、マレーやフィリピンへの南方侵攻作戦が主作戦だった。ハワイ作戦は、あくまでも支作戦だった。
日本が韓国・朝鮮を植民地した当時に良いことをしたのは、あくまでも植民地支配のために必要だったから。統治を円滑におこなうためにすぎない。単なる弾圧と搾取だけでは支配・統治は成り立たない。地域振興とか住民福祉を目的とした政策ではない。そして、アジア「解放」のためという宣伝をやりすぎてはならないというしばりが同時に軍部当局から発せられていた。
戦後の日本と日本軍がアジアで何をしたのか、正確な歴史認識が必要だと、本書を読みながら改めて思ったことでした。
(2018年1月刊。1600円+税)

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