弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年4月14日

黙殺

社会

(霧山昴)
著者  畠山 理仁 、 出版   集英社

選挙権を得てから私は棄権したことがありません。投票所で入れたい人がいないときは、わざわざ「余事記載」をして無効票を投じます。私にとって、投票するのは権利であって、義務でもあります。最高裁の裁判官の国民審査にしても、ムダなことだと分かっていても、ご丁寧に全員に×印をつけています。
みんなが投票なんてムダなことだと思っていたら、この社会には民主主義はないし、専制君主による独裁を甘んじて受けいれるしかなくなります。権利に甘えてはいけません。
ところで、誰が候補者になっているのか、その人は何を訴えようとしているのか、きちんと考えずに投票している人が少なくないのも現実です(少なくとも、私はそう考えています)。
初めから当選しそうもない候補者をマスコミは「泡末候補」と呼び、その政策をまともに紹介することはありません。著者は、その「泡末候補」にながく密着取材してきた。フリーの記者です。「泡末候補」と呼んではいけない、あえて呼ぶなら「無頼系独立候補」と呼ぶことを提案しています。
いまの選挙制度はおかしいことだらけです。その最大は死票続出の「小選挙区制」です。「政治改革」の美名のもとに、あれよあれよというまに実現してしまいました。「アベ一強」という、おかしな政治がまがり通っているのも、この小選挙区制の結果です。
もう一つは戸別訪問の禁止です。欧米の選挙運動では、テレビのCMとあわせて戸別訪問を活発に展開していますが、当然のことです。ところが、日本では戸別訪問は買収供応の温存になるとか、まるで客観的根拠のない不合理な理由で全面禁止のままです。これは現職有利にもつながります。
この本では、さらに供託金制度も問題視しています。フランス、ドイツ、イタリア、アメリカには供託金制度そのものがありません。供託金制度のあるイギリスでも7万5千円、カナダとオーストラリアは9万円。韓国は高くて150万円。ところが日本では、衆・参議員は300万円、政令指定都市については240万円。
かつてはフランスにも供託金制度があった。ただし、4千円から2万円ほど。それでもフランスでは高すぎる、必要ないという声があがり、1995年に供託金制度は廃止された。日本で供託金制度が出来たのは1925年のこと。普通選挙の施行とあわせて、供託金制度がスタートした。
「無頼系独立候補」の素顔を知ることができる本でした。

(2017年11月刊。1600円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー