弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年4月 6日

日米地位協定

社会

(霧山昴)
著者 明田川 融 、 出版  みすず書房

読めば読むほど腹の立つ本です。いえ、もちろん著者に対してではありません。歴代の日本政府に対して、そのだらしなさというより、もっとはっきり言えば、ひどい売国奴(ばいこくど)根性に怒りを覚えます。
日本はアメリカの全土基地方式を受け入れている。これは、アメリカ軍がいざとなれば、日本国内のどこであっても好き勝手に基地として使えるというものです。こんな屈辱的な方式を日本政府は受け入れているのです。許しがたいことです。そして日本の外務省は、その日本政府の方針の下で唯々諾々とアメリカの言いなりに動いています。日本の官僚機構として恥ずかしい限りの集団というほかありません。
日本占領軍のトップだったマッカーサーは、一貫して強固な沖縄要塞化論者だった。日本本土は徹底した非軍事化でよいが、沖縄は徹底した軍事化でのぞむという二つの顔があった。マッカーサーは沖縄の人々は、民族的にも文化的にも日本本土の人々とは異なると考えていた。とんでもない思い違いです。
日本地位協定についてのアメリカの基本的な考え方は、アメリカ軍の駐留を日本から要請し、アメリカが同意するという論理、つまり、日本に頼まれてアメリカ軍を置いてやるのだから、アメリカ軍や軍人・軍属・家族の権益くらいは日本は受忍してもらわないといかん。そして、そこは、当然に治外法権だし、すべての駐留費用は日本が負担すべきだというものです。ひどい話です。
アメリカ軍が基地としていたところに環境汚染物質が埋められていたとき、その現状回復義務をアメリカは負わず、すべてを日本側の負担となっている。情けない話です。まるで日本はアメリカの植民地です。
沖縄国際大学にアメリカ軍ヘリコプターが墜落したとき、その一帯をアメリカ軍がたちまち立入り禁止区域とし、日本の警察・消防の立入まで拒否した。ええっ、ウソでしょ。そう叫びたくなりますが、そんなアメリカ軍の横暴を許しているのが日本地位協定なのです。
アメリカ軍の将兵が日本で犯罪を起こしても日本側は一次裁判権を放棄するという密約にしばられて手を出せません。いかにも不平等・不公平・不条理です。これは、日本政府のアメリカへの忠実さと誠実さですが、同時に日本国民への不忠・不誠実でもあります。
日本は憲法にしたがって十分な防衛力をもっていないので、自国の安全をアメリカに依存しているのだから、モノ(基地)とカネ(防衛支出金)でアメリカに「貢献」しまければならない。この論理に自民党政府と外務省はとらわれている。
アメリカ軍の駐留経費の7割を日本は負担している。ドイツは3割でしかなく、韓国・イタリアだって4割なのに、異常な比率となっている。しかも、日本は光熱水料を全額負担している。
日本は、モノ・カネ・ヒトの三分野で、アメリカに全面的に協力させれているが、そんな国はほかに存在しない。いったい日本はアメリカに対し、どこまで「協力」したらよいのか・・・。
憲法についてアメリカ押しつけ憲法だと叫ぶ人は、日本地位協定の屈辱的な内容と運用については沈黙を守っています。すべてはアメリカに日本の安全を守ってもらっているからという幻想によります。一刻もはやく目を覚ましてほしいものです。
本分282頁の堂々たる研究書です。ご一読下さい。

(2018年2月刊。3600円+税)

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