弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2018年3月27日
弁護士って、おもしろい!
司法
(霧山昴)
著者 石田 武臣・寺町 東子 、 出版 日本評論社
私にとって、弁護士は、まさしく天職です。苦しい受験生活を経て司法試験に合格し弁護士になれて本当に良かったと思います。
私なりに一生懸命に弁護士をしているつもりなのですが、これでも事件の相手方(サラ金業者など)や、かつての依頼者から苦情申立や懲戒請求を受けたことが何回もあります。現役の弁護士である限り、苦情申立や懲戒申立をされるのは避けられないと今では悟(さと)りの心境です。無難にしておけば免れるかもしれませんが、「無難に」とか「大過なく」というコトバは私には無縁なのです。
この本には、老若男女の弁護士が弁護士の仕事の面白さ、やり甲斐を大いに語っています。なかには、本当にうらやましい話もあって、もっと私が若ければ・・・と思ったことも再三でした。
かつての法律事務所は「一見(いちげん)さん、お断り」があたりまえだった。今でも、それを高言するロートル弁護士がいないわけでもありません。要するに、ちゃんとした紹介者のない、見ず知らずの人が飛び込んできても、どこの馬の骨かわからないし、きちんと相応の謝礼を支払ってくれるという保証がないので相手にしない。そんな対応をするのが、普通でした。今でも高級料亭はそうだと聞いていますが、同じように特権的地位に弁護士はあぐらをかいていたわけです。
したがって、弁護士が御用聞きのようなことなんて見苦しいこと、恥ずかしい、もってのほかだという反発がありました。「アウトリーチ」なんて、とんでもないという発想です。福岡でも天神に法律相談センターを開設するにあたっては、似たような反発を受けました。今や隔世の感があります。
坪井節子弁護士が東京で子どもシェルターの活動を紹介していますが、本当に頭の下がる思いです。この13年間で、シェルターを利用した子どもは15歳から19歳まで、のべにして350人にもなります。そのうち、親との関係調整が出来て自宅に戻った子どもは2割にもなりません。多くの子どもは家には帰らない。高校を中退する。驚くべきことに、シェルター利用者の4分の3が女子なのです。親との関係では女の子のほうが難しいということでしょうか・・・。
子どもに寄り添うとは、想像を絶する苦しみを味わってきた子どもたちを前に、おのれの無力を痛感することから始まる。・・・すごい活動です。それでも子どもたちから教えられ、導かれていく喜びを味わうことが出来ると書かれていることが救いです。
弁護士のいない市町村は、まだまだ少なくありません。幸い、裁判所あるのに弁護士が一人もいないというゼロ・ワンの市はなくなっていると思います。ところが、過疎地に弁護士への需要はない、事件なんてない、もし、あったとしても都会にすぐ出てこれるから、なにも過疎地に弁護士が事務所をかまえる必要まではない。弁護士法人をつくって、法人の支店を置いて、週のうち何日間か、弁護士が交代で詰めておくだけで足りる(はず)。こんな考えの弁護士(会)がいます。
私は、乙号支部(今は正式には呼びません)に所属する弁護士として、これらは、とんでもない認識不足だし、誤りだと主張してきました。何らかのトラブルが身近におこるのは世の常ですが、そのときすぐに弁護士に相談しておけば、あとあとの対処がずいぶんと楽だったろうと思ったことは数えきれません。初期対応はとても大切なことです。
それにしても谷口太規(元)弁護士のレポートには驚嘆させられました。ひまわり公設事務所の弁護士として活動したあと、アメリカに留学し、今はミシガン州立の公設弁護人事務所で刑務所に長く服役していた人たちの釈放後の社会復帰を支援するソーシャルワーカーとして働いているのです。すごいことです。
この谷口(元)弁護士が弁護士とはいかなる存在なのか、次のように語っています。
弁護士は法律家だ。しかし、法律問題に直面するとき、その人は人生の曲がり角に立っている。このとき、人は負の出来事や感情と向き合い、自分の大切にしているものを考え、人生の意味を問う。弁護士は法律家であると同時に、そうした人々の、傷つきやすく、存在の根幹を賭した瞬間に立ちあう存在でもある。
そうなんです。人々の人生の重要な局面に、弁護士はそのすぐそばに立って支えることが出来るのです。弁護士って、だから面白いのです。
ぜひ、あなたも弁護士の世界に飛び込んでください。弁護士を将来展望の一つに考えている若い人に向けた、いい本です。ただ残念なのは、値段が少しばかり高すぎることです。
(2017年10月刊。2300円+税)
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