弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年3月13日

異色の教育長、社会力を構想する

社会

(霧山昴)
著者 門脇 厚司 、 出版  七つ森書館

学校教育のあり方を教育長経験者が鋭く告発する本であると同時に、あるべき姿も呈している頼もしい本です。
ながく教育研究者であった著者が、ひょんなことから(交通事故で瀕死の重傷を負い、一命をとりとめたのです)、居住する村の教育長を引き受けた6年あまりの活動をふり返った本です。ですから、学校現場のことがよく分かっていて、教育長ががんばれば、それなりのことが出来ることを証明しました。
私が感嘆したのは、「選書会」です。中学校に300万円、小学校には100万円を振り分けて、生徒全員に1人3冊まで選ぶ権利を与えます。合計600万円の予算で、業者に2000冊の本(マンガ本ははいっていません)をもってきてもらって、授業時間1コマを丸ごとつかって本を子どもたちに自由に選ばせ、図書館に置いて貸し出すのです。これでは子どもたちは図書館に通うようになりますよね。本好きは、新たな世界へ飛び出すのを助けます。この試みを幼稚園にまで広げた(ただし50万円)というのですから、たいしたものです。
そして、「ノーテレビ、ノーゲーム」運動を推進します。
さらに、「読み合い」です。これは、「読み聞かせ」ではありません。これまで会ったことのない2人が絵本を媒介にして仲良くなるきっかけにすることを主たる狙いとした取り組みです。
また、「おんぶ、だっこ運動」というのも実現させました。体育館のなかで、他の子をおんぶして一周する。また、他の子をだっこして一周する。これで、他の子と体と体を接することになり、相手の重さや体の温かさ、ときには特有の匂いにも気がつく。他者に対する親近感が高まり、クラスのまとまりが良くなり、いじめがなくなっていく。さらには、子どもの背筋力が向上する。
いいですね、いいですよね、こんな工夫って・・・。
そして、著者は学力向上路線からの離脱を宣言します。子どもたちが授業が楽しいと思えるようにするのです。勉強が楽しいと子ども思っていると、結果的に学力は向上します。うん、うん、そうなんですよね・・・。
また、キッズ・カンパニーを設立し、子どもたちがサツマイモをもとに商品として売り出す機会を与えます。もうけたら、村に税金を払ってもらいます。残ったもうけは子どもたちのために使われます。いやあ、楽しいですね・・・。
日本の教員は世界でも珍しいほど忙しい。朝7時から夜10時まで、働かされている。そして、その結果、日本の教員は勉強せず、自分の頭で考えなくなっている。その能力が「ほどほど」で、求められている水準に達していない。従順さはあっても、子どもたちの将来を考えようという視点に欠けている。
「ゆとり教育」は、知識偏重を憂い、人間らしい人間の育成を目ざすという目的だったが、現場の教員たちは何をしていいのか分からず混乱してしまった。
新しく教員になったうちの4分の1しか教員組合に加入しない。今では、教職員組合の存在感は薄い。
著者は、教員はもっと本を読み、勉強し、自分の頭で考えること、上からの指示にひたすら従うだけではいけないと強調しています。まったく同感です。そして、そのためには、もっと教員が学校でゆとりを感じられるようにする必要があります。まったくムダなイージス・アショアに2000億円を投じるなんてことをやめて、教育予算を増やしたらいいのです。そして、日の丸、君が代、そして教育勅語を押しつけるなんてバカなことをやめましょう。学校の教員をのびのびさせたら、子どもたちもハッピーになり、日本の未来も開けてくること間違いありません。
ところで、著者は、今はつくば市教育長です。続編が待たれます。楽しみです。
とても画期的な、いい本でした。あなたもぜひ図書館で借りて読んでみてください。

(2017年12月刊。2800円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー