弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年2月27日

新・税金裁判ものがたり

司法

(霧山昴)
著者  関戸一考・関戸京子 、 出版  メディアランド

私は税務署と長くたたかってきましたが、実は税務訴訟を担当したのは残念ながらそれほど多くありません。本当は、たくさんの納税者が無理・無法な課税処分に泣かされていると思います。しかし、税務署とたたかうには、本人に強烈な怒りを持続させることが必要ですし、取引先に恵まれないといけません。
税務署は反面調査と称して取引先に嫌がらせをしますし、本人への報復措置を平気でとってきます。これらを乗りこえるだけの怒りとそれを支える体制が必要なのです。この本の著者も本人に十分な怒りがあることを第一にあげていますが、まったく同感です。
著者は30数年間にわたって税金裁判を専門としてやってきました。かつては労働弁護士だったのが、今では税金弁護士へ変身したのです。その豊富な税金裁判の経験をふまえていますので、とても実践的な手引書です。
税金裁判で対峙することになる税務署(国)側の代理人は、実は裁判官が出向してきている人が多い。そして、彼らは全国的な検討会を定期的に開いている。だから、税務署とたたかって勝つためには、納税者の側も集団的議論をして検討・対応しなければいけない。税理士と共同し、学者や裁判官出身の弁護士と共同戦線を組むということが必要なのです。
とても信じられないことですが、税務署は関係書類を閲覧させても謄写は許さないという時代がごく最近までありました。法律の根拠がないというのが、その口実でした。自らは納税者の書類をさっさとコピーしたりするのに、自分はコピーを拒否してきたのです。つい最近、ようやくコピーをとるのか法改正で認められました。
また、審査請求のとき、課税庁に直接質問できるようにもなりました。私のときには一方的に主張するだけでした。税務署のなかには「納税者の権利」だなんて...と、せせら笑う人たちがいます。その典型で世間に顔を出さない佐川・国税庁長官です。
税務訴訟に至るまでの手続の流れが具体的に解説してあり、とてもイメージをつかみやすいと思います。そして、単に手続きの流れだけでなく、扱った事件でどんな苦労をしたのか、どんな成果をあげたのかも要領よく紹介されています。
たとえば、認知症の母から贈与契約について税務署が課税してきたのに対して、その無効を主張して、支払った贈与税を取り戻したというのです。すごいですね、この発想は・・・。物納許可がなかなかおりないうちに不動産の価額が上昇し、10年以上もたったあいだの未払金(延滞金をふくむ)の処理をどうしたらよいのかを争った件は、私の想定をこえる話でした。
推計課税の争い方にしても、税務署が他の人の青色申告書をなかなか開示しないのを開示させた例も紹介されていて、本当に明日からの実践に役立つことの多い本です。税金訴訟に関心のある人には必読文献です。
シャモニーなどの登山・トレッキング・ロッククライミングの写真が巻末にあるので、これには癒されます。やはり多忙のなかにも休息は必要です。
(2017年2月刊。3500円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー