弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年2月22日

アメリカの汚名

アメリカ

(霧山昴)
著者  リチャード・リーヴス 、 出版  白水社

 第二次世界大戦が始まった直後、アメリカにいた日系人はほとんど全員が砂漠のなかの強制収容所に収容されてしまいました。ドイツ人やイタリア人が同じような処遇を受けることはありませんでした。なぜなのか、私にとって長年の疑問でしたが、この本を読んで、その謎がとけました。黄色人種に対する差別意識もあったとは思いますが、それより前に、人口比がまったく違うのです。
強制収容所に入れられた日系アメリカ人は12万人。その7割はアメリカ生まれのアメリカ国民だった。司法省の推定によると、カリフォルニア州に住むイタリア系とドイツ系のアメリカ人には、5000万人以上の親類がほかの州にいた。これは全米人口の3分の1にあたり、彼らの協力なくして戦争に勝つことはできない。
日系人・日本人が戦争中にスパイ活動や破壊活動で告発されたケースは皆無だった。彼らが一度も行ったことのない日本帝国という敵国の兵士の顔に似た顔色をしているという理由だけで、戦時中ずっと閉じ込められていた。
1941年11月に、FBI関係者の報告には、日本人の武装蜂起はありえない、むしろ日系人が白人から危害を加えられる可能性のほうが高いとされていた。日系人は、もはや文化的には日本人ではないというレポートだった。ところが、真珠湾のあと、またたくまに恐怖と偏見、利害と強欲がカリフォルニアの白人社会に蔓延しはじめた。ロサンジェルス警察はリトル・トーキョーを閉鎖した。
日系農家は25万エーカーの耕地をもち、その価値は7500万ドルもあった。カリフォルニアの農作物の40%は日経農家によって生産されていた。
都市部では、大勢の白人ビジネスマンが日経ライバルの保有する店舗・事業・漁船を横取りしようと虎視眈々と狙っていた。これは、ドイツでユダヤ人迫害が進行中のとき、ユダヤ人のもつ資産をドイツの民集が押しかけて横取りしていたのと同じです。差別するものは横領できるという経済的利得も手にするのです。
日系アメリカ人について、「アメリカに生まれながら、日本の天皇にひそかに忠誠を尽くす人々」と決めつけ、迫害を正当化する言論がひどくなっていきます。日系人の一斉退去に反対する司法長官は集中攻撃を受け、四面楚歌となってしまった。
若い日系人は苦しんだ。「私は忠実なアメリカ国民。なのに、この私の顔は敵国人の顔をしている・・・」
日系人が収容された砂漠の収容所は夜になると夏でも寒い。まして冬になれば恐怖・・・。
ハワイにいた日系人は強制退去の対象にならなかった。なぜか・・・。島には戒厳令が敷かれたけれど、日本人が多すぎた。15万人もいる日本人は全島民の40%を占めており、退去させるのは非現実的だった。そして、ハワイ出身者は1万人が戦場行きに応募した。ただ、その日系人は、平均身長が160センチ、体重57キロと、あまりに小さかった。
有名な、「あたって砕けろ」(ゴー・フォー・ブローク)というのは、ハワイ人のサイコロ賭博のかけ声に由来する。
1944年10月、フランスの山中でアラモ連隊275人がドイツ軍700人に包囲・孤立したとき、救出に向かった日系兵士442連隊は果敢に突撃していった。その結果、1年前に1432人いた第100歩兵大隊は260人に減っていた。
1988年、市民の自由法が制定され、12億ドルの予算で8万人の被収容者に1人あたり2万ドルが支給された。日系アメリカ人が失った数十億ドル相当の資産に比べるとわずかなものだが、アメリカ政府が公式に謝罪したことの意味は大きい。
日系アメリカ人の苦難の状況を初めて詳しく知ることができました。戦争に突入すると、さまざまな異常心理がはたらくわけですが、人種差別もその一つなのだと思い至る本です。ヘイトスピーチなんて、本当にやめさせる必要があります。
(2017年12月刊。3500円+税)

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