弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年2月17日

明治の男子は星の数ほど夢を見た

日本史(明治)

(霧山昴)
著者  和多利 月子 、 出版  産業社

 「男はつらいよ」の主人公は車寅次郎ですが、本書の主人公は同じ寅次郎でも山田寅次郎です。寅年に生まれた二男だったことから命名されました。
 トルコに18年間も住み、オスマン帝国のスルタン(皇帝)と芸術面で交流があったとのことです。さらには、幸田露伴の小説のモデルにもなっているといいます。『書生商人』という小説です。沈没した外国船への義捐(ぎえん)金をもって外国へ行くというストーリーですが、それは山田寅次郎がトルコへ和歌山沖で沈没したトルコの軍艦に乗っていて亡くなった人々の遺族へ義捐金をもっていったことにもとづいているのです。
そして、山田寅次郎は伊藤忠太という東大の建築史教授とも交友がありました。さらに晩年は茶道の家元として活躍したのです。赤穂浪士の討入りが12月14日に決まったのは、この日に茶会があることを師匠が浪士の一人・大高源吾に教えたからですが、この茶道師匠と縁のあるのが山田寅次郎の身内の祖先でした。
 オスマン帝国の軍艦エルチュールル号が和歌山沖で遭難したのは、1890年(明治23年)、山田寅次郎が24歳のとき。生存者65人。死者80人という大惨事でした。山田寅次郎たちは義捐金を集めて、遺体・造物の引き揚げに取り組みました。2000万円ほど要したようです。
 著者は山田寅次郎の孫娘にあたります。調べはじめると意外にもたくさんの資料が出てきたようです。豊富な写真とともに明治の男子が夢をもって海外へ雄飛していった状況が明らかにされます。
 それにしても、男子たるもの外国語を三つはモノにせよとのこと。私は、フランス語ひとつだけでも四苦八苦しています。
日本とトルコの交流をはじめた開祖にあたる山田寅次郎なる偉人を知ることができました。たくさんあるさし絵も明治の雰囲気がよく出ています。
(2017年10月刊。2800円+税)

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