弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年1月19日

人口減少時代の土地問題

社会



著者  吉原 祥子 、 出版  中公新書

 空家等対策特別措置法が2015年に反面施行されてから、2017年3月付で、行政による空き家の強制撤去(代執行)は全国で11件。所得者不明のときの略式代執行は34件。これって、まだまだ少なすぎますよね。
所得者の所在把握の難しい土地は、私有地の2割にのぼり、今後も増加するだろう。鹿児島で2015年に調査したところ、相続登記がきちんとなされていない農地が21%あった。全国的にも、相続未登記の農地が2割ある。
福島第一原発の除染廃棄物を保管するための中間貯蔵施設予定地の地権者2400人のうちの半分1200人分が「所得者不明」の状態にある。
なぜ相続登記がなされないのか。土地売却や住宅ローンを組むためには相続登記する必要がある。しかし、自己資金でマイホームを建てるのなら、相続登記の必要はない。そして、相続登記手続には一定の費用がかかるが、対象土地の資産価値が高くなければ、お金をかけてまでする意味はない。
土地の資産価値は下落する一方にある。人口減少にともない土地需要が減り、地価の下落傾向が続けば、人々にとって土地は資産というより、管理コストのかかる「負の資産」になっていく。もらっても困る田舎の土地をわざわざ手間と費用をかけてまで相続登記を行わないのは、短期的な経済合理性から当然と言える。
 家庭裁判所への相続放棄の中立件数は年々増加する傾向にある。2000年に10万4500件だったのが、2015年には1,8倍の18万9400件になっている。
 地方自治体は、土地の寄付を受けとろうとはしない。受けとるのは「公的利用が見込める場合」だけだ。
国土調査の進捗率は52%。残りの48%については、完了までにあと120年を要する。この国土調査費用について、市町村の実質負担は5%でしかない。しかし、職員の人件費は補助対策とはなっていないので、市町村の負担減は小さくない。そして、国土調査で「筆界未定」がたくさん生まれている。
相続人不存在によって、亡くなった人の資産が国庫に帰属した金額は、2006年度に224億円だったのが、2015年度には420億円へ増加した。
 日本全国で空き家問題、相続登記未完了の土地が大量に存在している問題について、その原因と対策が論じられています。まさしくタイムリーな新書です。
(2017年7月刊。760円+税)

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