弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年12月17日

性風俗世界を生きる・・・

社会

(霧山昴)
著者 熊田陽子  明石書店

 性風俗店のスタッフとして2年あまり働いて、その実情を探求し、考察した真面目な本です。
 著者は大学院生であり、研究目的であることを明かしてオーナーの了解のもとにスタッフとして働き始めました。ただし、そこで働く女性たちには身分も目的も明かしていません。
 番なしのSMプレーもする性風俗店です。女性は20歳から42歳までの56人。そのうち結婚しているのは5人、9人は1歳から中学生までの子どもがいる。
 客層は30代から50代の男性を中心としていて、20代の客は珍しく、70代も数人しる。女性客もいる。
 女性たちが、何とか生きるために頑張っている実情がある。
 都市は、何とか生きようとする人々が集まる空間であり、窮地に陥った人が生をつなぐ見込みを見出す場でもある。入店のため面接を受けた女性が全員採用されるわけではない。美しくもない、話術が巧みでない、スタイルが悪い(太りすぎ)、年齢が高い、目立つ傷、皮膚が滑らかでないなどで拒否される。
 東京圏には、警視庁統計だけでも5200件ほどの性風俗店があり、巨大な市場を形成している。
 この店の料金は50分で1万8000円。このほか、ホテル代とタクシー代がかかる。客は週に2回という人もいるが、一般的には1ヶ月から3ヶ月に一度というペースが多い。年末ボーナスに一度だけという客もいる。地方からの客もいるし、海外からの客もいる。
 店には、顧問税理士がいて、広告業者に月50万円は支払っている。客への広告と女性募集広告。
 女性の入店希望は、お金を稼ぐこと。この店は日払い。多い人は週7日間、一日5時間働く。週に1回か2回、また夜の7時から3時間はたらく、土曜日の午後だけという人もいる。昼の仕事をしている人も少なくない。
 待機室にいて、客からお呼びがない状況が続くと、女性は単に収入がないというだけでなく、自分が否定されたと感じるようになる。
 女性たちは、ことばの達人になっていく。相手に合わせ、他人を傷つけないように会話を運ぶのが上手になっていく。
 女性たちは高給取りのようでいて、実際には腰を痛めたり、精神的にもう無理になったりする人も多く、継続して月50万円の稼ぎを確保するのは難しい。
 女性たちは、よく笑う。怒るのではなく、笑うことで、客は主、自分は従という枠組みのなかでも笑いの転換機能によって、状況的に優劣を逆転させながら、自分にとって生きやすい場を求めている。男性による風俗現場探訪記は読んだことがありましたが、このように当面から学術的研究目的での性風俗店への潜入ルポと分析的レポートは初めてでした。
 日本社会の現実を知らせる貴重な一冊だと思います。
 
 
(2017年8月刊。3000円+税)

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