弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年12月13日

市民政治の育てかた

社会

(霧山昴)
著者  佐々木 寛 、 出版  大月書店

 このところ新潟で奇跡が相次ぎました。市民と野党が一致して取り組んで、政権与党にせり勝ったのです。その立て役者が著者です。政治の研究を職業とする政治学者が、政治の表舞台にかかわり、その舞台裏の苦労話を語った本です。
この本には参院選挙と知事選挙までですが、その後の衆院選でも見事に勝利しました。参院選での森ゆうこ候補の当選は、その差わずかに2279票。夜12時近くになって、ようやく「当確」が出たのでした。
 日本にとって新しい政治とは、政治的な領域に市民が積極的にかかわるようになったということ。私はまだまだ足りないと思うのですが、それでもこの動き自体はもちろん高く評価しています。そして、これは、あの違憲の安保法制法を安倍内閣がゴリ押ししたことから市民に壁を乗りこえさせたのです。アベ政権も市民を目覚めさせ立ち上がらせたという点では立派に反面教師の役割を果たしたと評価できるのです。
この本のテーマはアート(技)としての市民政治です。それは、どういうことか・・・。
地域を変えるのは、若者、よそ者、ばか者だ。なるほど、あたっていると私も思います。もちろん、最終的には、本体である地元の人々が立ち上がらなければ本当の変革はありません。ただ、昔からの地元民は何かとしがらみがありすぎて、腰が重いことも多いのです。
全国ですすんでいる「野党統一候補」運動の最大の功労者は共産党。志位和夫は、いま永田町で一番光っている政治家だ。しかし、陰の功労者は、歴史上例をみないほどに分かりやすく国民を愚弄し続けているアベシンゾーだろう。野党を結束させたのは、他でもない与党の強権政治だ。
 3.11のあと、日本でもこれまでデモに行ったことのないような人が大勢、国会前や公園・広場で異議申立活動を日常的に行うようになった。これは、日本のデモクラシーが一歩前進した証だ。
選挙とは、まるで戦争みたいなもの。選挙の6割は、最初の仕込みで決まる。どういう政治的文脈で、どういう候補者を立てるかが決定的に重要。残りの4割は、選挙運動のがんばり次第。相手が金と権力にものを言わせて物量でくるなら、こちらは市民のネットワークと創意工夫でたたかう。
新潟で勝った要因の一つが投票率が6割だったこと。低い投票率は、自民・公明に有利なのです。ですから、棄権せずにみんなが投票所へ足を運べば、必ず世の中はいい方向に変わります。何もしないと、悪い方向へすすむばかりなのです。
選挙とは定期試験のようなもので、大切なのはふだんからの勉強の積み重ね。
著者は、「政治とは悪さ加減の選択である」と言い切ります。えぇーっ・・・。
政治家は、たいてい汚いところも持っていて、100%信頼できるなどということはありえない。また、政治には常にきれいごとではない、妥協や取引がつきもの。けれども、市民が学ばなければいけないのは、そういう政治でも関与し続けることをあきらめてはいけないということ。関与をやめたら、政治がどんどん悪くなっていっても、ブレーキをかけられないから・・・。
新潟に学ぶところは大きいと思わせる本でした。
(2017年11月刊。1600円+税)

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