弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年11月 9日

R帝国

社会

(霧山昴)
著者 中村 文則 、 出版  中央公論新社

子どもたちへの道徳教育を強引にすすめる政権のトップが平気でしらじらしい嘘をつき、それをマスコミは何も問題としない。国民の4人に1人しか支持していないのに、選挙制度のマジックで、国会議員の4分の3を占め、堂々と「民意を代表して」と強弁する。
そんなクニ(国)に私たちは住んでいます。そして、それに多くの国民が疑問を抱かずに流されています。忙しいから行けなかったと言いながら、実際には居間でテレビを見たり、ネットでゲームをしたり、怪し気な映画を見ている。半分近くの人は、選挙なんて自分には関係ないと思い込み、思い込まされています。そして、気がついたときには、あれあれ、こんなはずじゃなかった・・・と反省する間もなく、戦争に巻き込まれている・・・。言ってみれば、そんな状況設定で進行する恐ろしい小説です。無荒唐無稽のフィクションであってほしいと願わずにはおれませんでした。
朝、目が覚めると戦争が始まっていた。旧式の核兵器があり、R帝国は環境に優しい核兵器をもっている。
緊急事態国民保護法のため、国民がインターネットへ接続するのは一時的に停止される。緊急事態国民保護法が厳密に施行されたことで、戦争を否定する言論は、当然、国民安全法違反として取り締まりの対象になった。戦争に反対することは、自国の一体感を動揺させることであり、敵国の思うツボであり、一刻も早い逮捕が求められた。
情報提供が呼びかけられ、誰でも気軽に密告できるようになっている。ただ会社や学校で嫌われているだけで反戦者つまり売国奴とされる危険がある。みな息を潜めて生活している。誰もが誰かの行動をかたずをのんで注視し、失脚を期待した。ここには、緊張と全体主義の喜びの熱風・・・、この二つが入り交ざっている。
自分たちの国は、報道表現の自由があると国民は勘違いさせられている。
本当は政府に都合の悪い写真だから載せないのに、誰も本当の理由は言わない。
小説とはいえ、そら恐ろしい寒々とした情景です。ジョージ・オウエルの本を思い出しました。気がついた人から声を上げていくべき、一歩前へ踏み出すべきときです、今は・・・。
(2017年8月刊。1600円+税)

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