弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年11月 8日

偽装の被爆国

社会

(霧山昴)
著者 太田 昌克 、 出版  岩波書店

アイゼンハワー大統領が西側の抑止力を支える屋台骨として期待したのが、壮絶な破壊力を備えた核戦力だった。兵力・兵員の数で西側を完全に凌駕するソ連を相手に、通常戦力でまともに戦いを挑んだとしても、それはまさに多勢に無勢。ソ連が西欧諸国に攻め込んできたら、アメリカは核爆弾や核ミサイルを使って一気呵成に応戦する。
アイゼンハワー政権が1960年12月に策定した「SIOP-62」は、核を撃ち込む爆心地を1043ケ所に設定、最大3400発もの核使用を計画するものだった。
ソ連の奇襲攻撃を探知したら、まず1500発の核をソ連の核基地や軍事拠点に投下する。さらに、ソ連や中国の都市多数を核攻撃し、100万人単位の犠牲者を出す・・・。
アジア太平洋地域に持ち込まれた核兵器は最大3200発。沖縄には、1300発が配備・貯蔵された。ベトナム戦争ピーク時の1967年のこと。沖縄は、ベトナムへの重要なアメリカ軍の出撃拠点であると同時に、アジア最大の「核弾薬庫」だった。
1979年11月9日未明、ジミー・カーター大統領の補佐官ズビグニュー・ブレジンスキーに「ソ連の潜水艦が220発の核ミサイルをアメリカに向けて発射した」という情報が届いた。その直後に、220発でなく、2200発と訂正された。ところが、これは早期監視の運用システムに誤って訓練用のテープが挿入されたことによるミスだった。
アメリカは900発のICBMと潜水艦発射弾道ミサイルが即時発射可能な状態にある。軍事衛星などがもたらす早期警戒情報でロシアの核ミサイル発射を確認できたら、大統領はこれら敵のミサイルがアメリカに着弾するまでに「核のボタン」を押す即応態勢をとっている。着弾前に決断する必要があるが、そのために大統領に許された時間は、わずか6分から12分しかない。
北朝鮮を標的としてアメリカが本格的な核攻撃を加えたら、どうなるか・・・。韓国は北朝鮮と陸続きで、日本とは一衣帯水の地理的関係にある。フォールアウトによる放射能被害が広範囲に及ぶのは明々白々だ。北朝鮮への核使用は、あまりに非現実的。そう考えるアメリカの専門家はいる・・・。
日本国内にあるプルトニウムは9.8トンで、このほかイギリスに20.8トン、フランスに16.2トンをもち、合計すると46.9トンを日本は保有している。このプルトニウムが核爆弾をつくると5863発ができる。その結果、日本は核兵器をつくろうとしているのではないかと外国から疑いの目で見られている。
日本は21世紀までは原発輸入国だったが、最近では原発輸出国になろうとしている。
核兵器禁止条約を日本政府は敵視していますが、核兵器という悪魔の兵器で第三者を威嚇し、恫喝するような事態は直ちにやめる必要があるのです。それは北朝鮮との関係でも同じです。核には核を、いつまでもこんな発想でいたら人類の絶滅を早めるだけでしかありません。危険なウォーゲーム路線を走るアベ政権にストップをかけるしかありません。
時宜にかなった本です。ご一読を強くおすすめします。
(2017年9月刊。1700円+税)

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