弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年11月 5日

13歳からの夏目漱石

人間

(霧山昴)
著者 小森 陽一 、 出版  かもがわ出版

夏目漱石は、「坊ちゃん」とか「わが輩は猫である」とか、もちろん面白く読みましたが、「それから」とか「こころ」などは、読んだかどうか不確かです。
猫に名前がないことに意味があるという著者の指摘には、目が大きく開かされる思いでした。「吾輩」に「名前」をまだつけてくれないということには重要な意味がある。それは、「主人」と「奴隷」には入らないという無意識の意思表示にほかならない。「無名の猫で終る」ということは、決して隷属しない「自己本位」を「吾輩」が生き抜くことの証(あか)しなのである。うひゃあ、そうだったんですか・・・。
「門」のなかの問答で、妻が夫に3回も、どうして伊藤博文が殺されたのかを問うている場面がある。それは、暗殺者である安重根が予審のなかで明らかにした伊藤博文殺害の15箇条の理由書をぜひ読者に読んでほしいという夏目流の問いかけだった・・・。
うむむ・・・、そういうことだったのですね。
東京帝国大学の英語教師だった漱石は、朝日新聞の社員になった。「大学屋」から「新聞屋」への転職は、大日本帝国の支配機構から相対的に自由になることだった。
新聞がもっとももうかるのは戦争報道だった。それが日露戦争で終ってしまったので、朝日新聞は小説欄を充実させるために漱石に連載小説を依頼した。テレビもラジオもない時代なので、新聞しかない。日清戦争のときから新聞を毎日読むという習慣が広がり、日露戦争のときの国民の識字率は90%をこえていた。
「九条の会」の事務局メンバーとしても活躍している著者が中学・高校生に向けて夏目漱石の文学を語りました。その感想文が紹介されていますが、なんとも言えないほど素晴らしいものです。私が高校生のときに、こんな鋭い分析的な文章を書けたとは、とても思えません。ああ、漱石って時代の風潮に鋭い批判の眼をもち、考えさせるように仕向けていたんだね、この点が鈍感な私にもよく分かる本になっていました。
「漱石」の深読みをしたい人には、とっくにご存知のことかもしれませんが、強くおすすめしたい本です。
(2017年6月刊。1600円+税)

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