弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2017年10月18日
「人間力」の伸ばし方
司法
(霧山昴)
著者 萬年 浩雄 、 出版 民事法研究会
萬年節(まんねんぶし)が炸裂している本です。なにより驚かされるのは、著者はこの25年間、帝国データバンクの帝国ニュース(九州版)に月2回、「弁護士事件簿」を連載しているということです。私も、この書評は2001年以来の連載になりますし、月1回の全国商工新聞の法律相談コーナーを1989年以来担当していますので、もう28年になります。ですから、お互いに健闘をたたえあいたい気分です。
それはともかくとして、「弁護士事件簿」がそれなりのジャンル別に編集してありますので、大変読みやすくなっています。それこそ、経営者にとっても、また若手弁護士にとっても学ぶところの大きい内容になっています。
依頼者の気持ちを共感できるか否か。共感できないなら、受任を断る。自分の主義主張と異なり、事件処理にあたって自分の哲学と違い、説得しても耳を傾けない依頼者と判断したときには、「私は頭が悪いから、私より頭の良い弁護士のところに行ったほうがいいよ」とやんわり言って断る。
なるほど、こんな言い方もあるのですね、今度つかってみましょう。
当方の提出した書面はもちろん、相手方の書面や書証、そして証言調書も全部コピーして依頼者に送る。依頼者にとって、自分の裁判が今どうなっているのか、弁護士として説明するのは当然だという考えから実行している。だから、依頼者と打合せするときには、同じ内容のファイルをそれぞれ持っていることになる。
私もまったく同じ考えで、昔から実行しています。ところが、今なお、それをしない弁護士がいるようです。私には信じられません。
著者は土地境界争い事件はなるべく受任しないようにしているとのこと。たしかに、これは法律紛争というより感情レベルの紛争であることが大半で、法律家泣かせです。ですから、私は、着手金を「弁護士への慰謝料なんですよ」と説明し、納得していただいたら受任しています。
相手方と交渉しているときなど、これ以上、相手と話をしても時間の無駄と思ったときには、深追いせずに中断する。そして、双方とも頭を冷やして、交渉を再開する。
この点も、私は同感です。ダラダラとやっても時間ばかり過ぎていきます。ちょっと間をおいたほうがよいことが多いものです。
著者は毎朝5時に起きて新聞を5紙読んでいるとのこと。これは私も朝5時を6時にすれば同じです。そして、読書タイムは移動するときの交通機関の中だというのもまったく同じです。私のカバンには、常時、単行本が2冊、そして新書・文庫本が2冊入っています。
著者は速読派ではないようですが、私は速読派です。東京へ行く1時間半の飛行機のなかで本を2冊読むようにしています。それも部厚い単行本です。いつだって飛行機は怖いのです。ですから、その怖さを忘れることのできるほど集中できそうな本を選んでおき、機中で必死に集中して読むのです。飛行機が無事に目的地に着いたときには、いつも心の中で「ありがとうございました」とお礼を言うようにしています。なぜ速読するのかというのは、たくさんの本を読みたいからです。世の中には私の知らないことが、こんなにたくさんある。そのことを知ると、ますます多くの本を読んで知りたくなります。要するに好奇心からです。
弁護士の仕事はケンカ商売である。だから、役者的要素が不可欠だし、交渉には計算し尽くしたシナリオと演技で勝負する。
そうなんですよね。私も、最近は大声をあげることはほとんどありませんが、以前は大声をあげることがよくありました。著者は今でも怒鳴りあげているようです。それで、金融村で、「ケンカ萬年」と呼ばれているそうです。今でも、でしょうか・・・。
著者が怒鳴る相手に裁判官もいるとのこと。実際、私も裁判官に向かって怒鳴りあげたい思いを過去に何回もしましたが、勇気もなく、怒鳴ってもムダだろうなと思って怒鳴りませんでした。
思い込みの激しい裁判官、やる気のない裁判官、上ばかり見ていて、重箱の隅をつっつくことしか目にない裁判官、この40年以上、いやというほど見てきました。気持ちの優しい、しかも気骨ある裁判官にたまにあたると、心底からほっとします。
弁護士は嘘をつかない、約束を守ることが信用を築く基本だというのも、まったくそのとおりです。価値ある150話になっています。300頁あまりで3000円。安いものです。若手弁護士にはぜひ読んでほしいものです。
(2017年8月刊。3000円+税)
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