弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年8月29日

我、市長選に挑戦す

司法

(霧山昴)
著者 小宮 学 、 出版  海鳥社

飯塚市で活動している小宮学弁護士が飯塚市長選挙に立候補し、見事に落選した経過をふり返った奮闘記です。
小宮弁護士の前著『筑豊じん肺訴訟』(海鳥社)は、なかなか感動的ないい本でした。このコーナーでも紹介し、高く評価しました。2008年の発刊ですから、以来、9年ぶりの著書になります。今回の本も、とても平易な文章で分かりやすく、80頁あまりのブックレット・タイプですので、ぜひみなさん、買って(500円)読んで下さい(私は贈呈を受けましたが・・・)。
小宮弁護士は福岡県南部の高田町(現みやま市)に生まれ、久留米で弁護士生活をスタートさせました。そして3年後、筑豊・飯塚市に移り、じん肺裁判に弁護団事務局長として18年あまり関わってきました。
小宮弁護士は、本人は「弁護団員のなかでは穏かな方だ」という自己評価ですが、原田直子弁護士は、「すぐに怒り出し」、「すぐに泣き出す人」と評価します。原田弁護士は続けて、小宮弁護士は「正義感が強く、相手が誰であろうと、決して屈しない人」だと街頭演説のときに紹介したとのことです。この点は、私も、まったくそのとおりだと思いますが、この本を読んで、ますますその意を強くしました。
なぜ小宮弁護士が飯塚市長選挙への立候補を決意したのか・・・。
市長と副市長が執務時間中に庁舎を脱け出して、元市会議員で事業経営者のマージャン店で賭けマージャンをしていたことが発覚したのです。それ自体が大問題ですが、当初は開き直っていた市長が辞意を表明するとともに、後継者として、同じ賭けマージャン仲間の教育長を指名しました。これを小宮弁護士の正義感は許すことが出来ませんでした。
これって、本当にひどいですよね。許せませんね・・・。
ところが、この点を西日本新聞筑豊支局はまったく問題にせず、むしろかばってやるかのような報道で一貫させたというのです。ジャーナリズム精神が泣きますよね。この点について、筑豊支局の総局長は「我が社の自由です」と答えたそうですが、これってジャーナリズムの自殺行為と言うほかありません。
西日本新聞は私も購読していますが、これには、正直いって、大変に失望させられました。それほど、筑豊では麻生一族に歯向かえないというわけなのでしょう・・・。残念です。
小宮弁護士は、本書のなかで、西日本新聞に対して、「襟を正せ」、「権力に媚びるな」と叫んでいますが、私も声をそろえて同じことを叫びたいと思います。
この本には、私もよく知っている故・松本洋一弁護士の言葉が紹介されています。がんのため早くに亡くなられましたが、本当にたいした弁護士でした。私も小宮弁護士と同じく、心から尊敬していました。
「たたかいは勢いである。小さくても勢いがあるほうが勝つ」
久々に松本節(ぶし)を思い出しました。切れのいいタンカで松本弁護士は法廷を見事に圧倒していました。
民法学の大家で、立命館大学の総長もつとめた末川博博士が小宮弁護士に次のようなフレーズを書いた色紙を贈ったとのことです。
「法の理念は正義であり、法の目的は平和である。だが、法の実践は社会悪とたたかい、時代の逆流とたたかい、自分自身とたたかう闘争である」
小宮弁護士は、この末川博士の教えを守って、これからもがんばる覚悟で本書をいち早く刊行したのです。とりわけ法曹を志望する人にぜひ読んでほしい冊子です。
(2017年8月刊。500円+税)

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