弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年8月14日

宮沢賢治の真実

日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 今野 勉 、 出版  新潮社

宮沢賢治と妹トシについて、丹念に事実を発掘していて、その苦労の成果にしばし言葉が出ないほど圧倒されました。
賢治の妹、とし子は、小学生のときから学業成績が抜きんでていて、花巻高等女学校では、生徒総代として送辞、卒業生総代として答辞を読んだ。そして、日本女子大の家政学部では、最終学年では、病気のため3学期の授業をすべて欠席したが、卒業が認められた。艶(つや)めいた話もないまま病気のために24歳で亡くなった。私も、そう思っていたのですが、この本を読むと、それが、とんでもないのです。地元新聞に独身の音楽教師との仲を連載で書きたてられていたというんです。うひゃあ、本当なんですか・・・。
大正4年3月20日、岩手民報は、「音楽教師と二美人の初恋」と題する記事の連載を始めた。教師や女生徒は仮名だったが、H学校が花巻高等女学校を指しているのは明らかだった。卒業式前日までの3日間の記事は、とし子の心に致命傷を負わせた。このことを、賢治は、あとになって知るのでした。
そして、賢治自身は、同性の友人・保阪を「恋して」いたというのです。
この本は、賢治の本の一節、そして、詩を抜き書きして解説するだけでなく、その舞台となった現地に自ら行って、そこで考えていることに大きな特徴があります。
400頁にも及ぶ大著です。宮沢賢治をめぐる世界をさらに深く認識することが出来た気がします。著者は私より20年も年長です。読む前は、警察小説の著者かと錯覚していました。
宮沢賢治の深読み本の一つとして、賢治に関心ある人には一読を強くおすすめします。
(2017年6月刊。2000円+税)

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