弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年8月 9日

女性と労働

社会

(霧山昴)
著者 日本弁護士連合会 、 出版  旬報社

2015年10月に千葉の幕張で開かれた日弁連人権擁護大会のシンポジウムの報告書を要約・加筆して出来あがった本です。
シンポジウム実行委員会はオランダへ現地調査をしたようで、巻末資料として、その報告書がのっています。アムステルダム市はセックスワーカーの権利保護に乗り出しているというのが、私には目新しい話でした。写真で見たことしかなく、現地に行ったこともありませんが、アムステルダムには「飾り窓」で有名な地域があります。そこで働くセックスワーカーは全市5000人から8000人のうち、2000人。今は東欧出身の女性が多い。顧客は年間20万人に近く、アムステルダム在住者は3分の1以下で、半分以上が独身、5人のうち2人はパートナーがいると推測されている。
アムステルダム市の売春政策は①合法的な売春をノーマル化する、②非合法の売春を察知する、③ワーカーのエンパワーメントとケア、④予防という4つの目的がある。ライセンスがなくても、自宅で週に何回か売春することは合法扱いされている。そして、18歳以下の子どもがセックスワーカーになるのは禁止されている。
では、日本はどうなっているか。売買春はもちろん法で禁止されているが、現実には、女性が性的サービスをしている性産業の営業所数は2万2千ケ所ほどあり、1ケ所平均20人として、40万人以上の女性が働いている。ここは、他の職業とは比較にならないほど生命・身体に危害を及ぼすリスクの高い特殊な労働である。
学費が高く、奨学金が貸与制のために、大学生(女性)が性産業で働くケースが多いことは前から指摘されている。
それにしても日本の「人づくり」政策は根本的に間違っていますよね。大学の入学金が国立大学で82万円、私立大学で132万円するなんて、信じられません。
私のときは月1000円でした。ヨーロッパでは学資はタダどころか、学生に生活補助しています。これこそまさしく「人づくり」ですし、「国づくり」です。大型ハコモノづくりとかムダな軍事予算を削って、人材養成にこそ国はお金をつかうべきです。
女性が働きながら子育てしようとするときに直面するのが保育園の確保です。この本によると、保育士の資格をもちながら働いていない潜在保育士が60万人もいるとのこと。もったいない話です。それほど、保育現場の労働環境は劣悪なのです。
そして、教員にも非正規が年々増えている。2005年にして、3%だったのが、2011年には16%になった。
看護師は9割以上が女性で、深刻な過重労働が横行している。
では、日弁連はどうしたらよいと考えているのか・・・。この本では、いろいろ、たくさん問題提起されていますので、かえって要点、ポイントが分かりにくくなっている気がしました。
もっと、男も女も、個性ある人間として社会が大切にしていることを実感させてくれる世の中にしたいものです。そのための貴重な現状告発と問題提起の本です。
委員長の中村和雄先生、よくぞ本にまとめられました。お疲れさまです。
(2017年4月刊。2000円+税)

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