弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年8月 3日

人工知能の核心

人間

(霧山昴)
著者 羽生 善治 NHKスペシャル取材班 、 出版  NHK生活新書

中学生の藤井四段の29連勝には将棋門外漢の私も驚かされました。
私も子どものころ、将棋を少しだけしてみましたが、才能のないことにすぐ気がつき、やめました。囲碁のほうは、弁護士になりたての暇なころに入門書を買って読んでみましたが、これまた才能のないことを自覚して、すぐに見切りました。以来、今日まで迷うことなく読書とモノカキに精進しています。
人工知能の将棋では、開発者自身は必ずしもゲームに詳しくない。ともかく、アルファ碁同士でとてつもない数の対局をこなす。一試合を高速でこなすことで、何十万局というデータをごく短時間で入手できる。
チェスの人工知能であるディープ・ブルームは、100万局以上のデーターベースが搭載されていて、1秒間に2億局面を考えることができる。過去の対局の情報と、力づくの計算能力の「ブルドーザー方式」で人間に勝利した。
今の人口知能には、間違った答えを出してくる神経細胞をうまく間引いてくれる手法が入っている。これを誤差逆伝播法という。伝言ゲームの途中でトンチンカンな情報を伝えるような信頼できない人がまぎれこんでいるのをうまく排除するシステムだ。
人工知能には「恐怖心」がない。フツーなら怖くて指せないような、常識外の手を人工知能は指す。
創造とは何か・・・。その99%は、今までに存在したものを、今までにない形で組みあわせること。しかし、残りの1%は、何もないところから、あたかも突然変異のように生まれてきた破壊的イノベーションだ。
将棋を指すとき、棋士は直観によって、まずはパッと手を絞り込む。将棋は一つの局面で、平均80通の指し手がある。そのうちの、思い切って二、三手に絞る。
つまり、ゼロから一つずつ積み上げて考えるのではなく、まずは、だいたい、あのあたりだなと目星をつけて、そのうえで論理的に考えていく。このほうが、より早く答えに到達できる。直観とは、決してやみくもなものではなく、経験や学習の集大成が瞬間的にあらわれたものなのである。
これは、弁護士にとっても同じことが言えると思います。私のように弁護士生活も40年以上すぎてしまうと、新しい法律理論はなかなか頭に入ってきませんが、事件の全体的見通しなどについては、過去の体験をふまえて、瞬間的に見えてくるものがあります。
直観によって手を絞り込んでいても、10手先までを全部読むのは、多くの人が想像する以上にはるかに難しいこと。そこで、大局観が必要となる。そのためには、具体的な一手からいったん離れてみる。将棋は囲碁と違って、この一手以外は、全部マイナス1000点になるような手が頻出する。
なので、将棋に強くなるために、一番大切なことは、だめな手が瞬時に分かること。将棋では、最善手と次善手の差が、それほど大きい。
人工知能の実際を将棋を通じて知ることが出来ました。法曹界にも人口知能はさらに進出してくると思います。でも、結局のところ、人間対人間の微妙な心の屈折感情を解きほぐすのには人口知能より、生きた人間の過去の蓄積をふまえた判断によるあてはめが必要です。そのとき、AIだけに頼っていたら間違ってしまう危険は大きいと私は思います。
(2017年6月刊。780円+税)

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