弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年8月 1日

めぐみ園の夏

社会

(霧山昴)
著者 高杉 良 、 出版  新潮社

著者の経済小説は、かなり(全部とは決して言いません)読みました。その丹念な取材による状況再現力(想像力)には、いつも驚嘆してきました。
今度は、自伝的長編小説というのです。どんなものかなと、あまり期待せずに読みはじめたのですが、思わずストーリーの渦中にぐいぐいと引きずり込まれてしまい、裁判の待ち時間も使って、その日の午前中に読了してしまいました。
ときは昭和25年(1950年)夏、両親の別居・離婚に至る過程で4人姉弟が孤児を収容する施設に無理して入れられます。まだ3歳ちょっとの末娘は、まもなく養子にもらわれていくのですが、主人公は兄妹がバラバラにされるのを怒ります。
いま、弁護士として離婚にともない兄弟がバラバラにすることの是非を絶えず問い返しています。幸い、本書では養子縁組は幸せな結果をもたらしたようです。胸をなでおろします。でも、いつもそうとは限りませんよね。「レ・ミゼラブル」のように下女か下男のような扱いを受け、こき使われるばかりというケースも少なくないのではないでしょうか・・・。
主人公は小学生(11歳)の亮平です。スポーツが出来て、成績も良くて、何より人から好かれるという性格なので、施設から学校に通っても、クラスで級長をつとめるようになるのです。
施設生活では、理事長と園長のワンマン経営、そして、そのわがままな暴力息子が孤児たちを脅しまくります。
両親に見捨てられた孤児たちは施設を出てから、まともに仕事をし、家庭生活を送るのに大変な苦労をさせられると聞きます。楽しい家庭生活を体験していないことからくる強い不安があり、これを乗りこえるのに大変な努力を要するのです。
幸い、この施設には、優しい指導員が何人もいて、孤児たちを温かく包容し、励ましてくれるので、主人公はまっすぐに伸びていくことが出来ました。その苦難を乗りこえていく過程がとてもよく紹介されていて、なるほど、それで、次はどんな展開になるのだろうかと、頁をめくるのがもどかしくなります。
結局、主人公は中学生になって母親ではなく、愛人と暮らす父親のもとで生活することを選択するのですが、それに至る葛藤の描写に迫真性があります。
親の離婚が子どもたちにもたらす影響、そして子どもがそれを乗りこえていく力を秘めていること、そのためには周囲の温かい支援が必要なんだということがよく分かる本でした。
読んで、じんわり、ほっこりする小説として、よく冷房のきいたなかで一読されることをおすすめします。
(2017年5月刊。1500円+税)

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