弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年7月25日

シリアからの叫び

シリア

(霧山昴)
著者 ジャニーン・ディ・ジョヴァンニ 、 出版  亜紀書房

シリアで内戦が始まって、もう何年にもなります。
「戦争は、いつ終わるの?」 この子どもの素朴な質問に対して、「もうじき終わるのよ」と答えるとき、胸が痛むと書かれていますが、まったくそのとおりです。シリア内戦が始まってからの5年間で、シリア国民の平均寿命が79.5歳から55.7歳にまで20年以上も縮まったとのこと。哀れです。
推定死者は47万人。負傷者は190万人。殺害されたジャーナリストは94人。
イスラム教徒は、死者を死んだ当日の日没前に埋葬しようとする。死者の名誉を称えるた
めに。湯灌(ゆかん)させ、白い死装束を着せる。葬儀の祈りを唱える。頭がメッカの方向を向くように埋葬する。
普通の人々にとって、戦争は何の前触れもなく始まる。娘たちのために歯医者の予約を
し、バレエのレッスンを手配していたのに、突然、カーテンが下りる。ATMは機能し、携帯電話もつながり、日々の習慣は続いていたのに、突然、何もかもが停止する。
バリケードが築かれる。徴兵がおこなわれ、近隣では自衛団ができる。政府高官が暗殺
され、国は混沌に向かっていく。父親が消える。銀行は閉鎖され、富も文化も生活も一気に消滅する。
戦争とは、破壊。骸骨、そして人の生命の抜け殻。
昔の世界は、すっかり消えている。煙草の煙のように・・・。
戦争とは、延々と待つこと。
 終わりのない退屈。ここには電気もテレビもない。
本は読めず、友だちにも会えない。絶望が深まるが、それを燃やす方法はない。
ここには、ほとんど何も残ってない。パンを焼くための動力がなかった。料理をするガスがな
かった。ここでの生活は欠乏だらけだった。
ここで生きていくために重要な二つのルールがある。一つは、政府軍の摘発を受けずに身
を守ること。もう一つは、食料を見つけること。
戦時下の人々の生活はすさんだものだった。だれも停戦など気にかけない。戦時下では、
もっともなことだけど、犯罪と不信と悲嘆しかない。
シリアの人々の苦難な状況がなんとなく分かった気になりました。
著者は、シリアの現状を現地まで出かけて取材したのというのですから、その迫力は並み
たいていではありません。いったい全体、誰がこんな戦争するのか当たり前の状況になったのでしょうか・・・。シリアの近況を写真とともに見ることの出来る本です。
(2017年3月刊。2300円+税)

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