弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年6月28日

フィリピン

アジア(フィリピン)


(霧山昴)
著者 井出 譲治 、 出版  中公新書

フィリピンには2度だけ行ったことがあります。一回目はODAの現地視察ということでレイテ島に行きました。そこでは、大岡昇平の『レイテ戦記』を偲びました。激しい戦火によって、原生林のジャングルはなくなったとのことで、こんな山奥で若い日本人青年たちが死んでいったのかと思うと、戦争のむごさを実感しました。二度目は、マニラの近代的なショッピングセンターに入りました。すぐ近くに極貧状態に置かれた人々から成るスラムがあり、貧富の差があまりにも明らかでした。
そんなフィリピンですが、アメリカ軍の基地を撤退させた民衆の力には日本も大いに学ぶべきものがあります。
そして、アメリカ軍基地のあったところは、沖縄の「おもろ町」あたりと同じで、経済的に繁栄しているのです。やっぱり、基地は百害あって、一利なしという存在なのです。
「権力への抵抗」という歴史の積み重ねが、フィリピン人のナショナリズムの原点であり、フィリピンという国も民主主義の拠りどころになっている。
フィリピンの国民の1割が国外で働いている。たしかに日本にもフィリピン人がたくさん来ています。夜の町には、フィリピン・パブがたくさんありました。昔、レイテ島に行ったときにも、日本へ出稼ぎに行ったという人々にたくさん出会いました。
フィリピンの選挙で必要なものは、金(Gold)、銃(Gan)、私兵(Goon)だと伝統的に言われてきた。この三つの頭文字をとって、3G選挙だと形容されてきた。近年でも、選挙のときの死傷者は少なくない。しかし、中間所得層が拡大していくにつれて、政策決定の透明化を求める声も強まっている。
フィリピンの民主主義の問題点は、行政の汚職や腐敗が蔓延している結果国民の政府に対する信頼度が低いこと、議会は汚職・腐敗を是正する機能・役割を十分に果たしていないことがあげられる。
日本でも、今のアベ政権のように、親しい友人や、思想傾向を同じくする人を重用し、そのためには制度をねじ曲げることも公然といとわないという事態が許されてしまえば、決して他人事(ひとごと)ではなくなります。
フィリピンの最新の状況とかかえている問題点を理解することのできる新書です。
(2017年2月刊。800円+税)
 東京・神田の岩波ホールでチベット映画『草原の河』をみました。6歳の少女が主人公なのですが、あまりにも自然な演技なのに驚きました。史上最年少の最優秀女優賞をもらったというのも納得できます。
 チベットの放牧生活が淡々と展開していきます。といっても、農耕も始まっているようです。春に農地で種まきをして、秋に収穫します。一粒の種が何十倍にも増えると聞いて、少女は大切なクマさん人形を地面に埋めるのです。春になったら、たくさんのクマさん人形が生まれると信じて・・・。
 チベットの大草原で、時間がゆっくり流れていく。しかし、人間の営みは、なにかと行き違うことが多い。父と子が理解しあうのも難しい。
 人生をじっくり考えさせてくれる映画でした。

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