弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年6月15日

中国経済を読み解く

中国

(霧山昴)
著者 室井 秀太郎 、 出版  文眞堂

このところ中国へ旅行していませんが、北京や上海・大連には何回か行ったことがあります。その都度、どんどん超巨大都市になっていくのを目のあたりしました。
中国共産党による一党支配下にあるにせよ、「共産中国」などと呼ぶより資本主義を謳歌している国としか見れません。
シルクロードにも行きましたが、ウルムチも大都会だと思いました。重慶や北京、西安も、いずれも日本の東京に勝るとも劣らない巨大都市です。
この本は、日経新聞の記者として中国に常駐していた体験もふまえて、中国経済をみるときに欠かせない視点を提供しています。わずか150頁ほどの薄っぺらな本ですが、いくつかの大切な欠かせない視点が盛り込まれていて勉強になりました。
日本人は、中国経済が移行経済であることを、よく認識していない。
中国にも証券取引所があるが、地方政府に上場企業の枠を割り当てたことから、地方政府は、効率の悪い地方の国有企業を救済するために株式市場を利用した。株式市場は、成長性のある企業を育てる場はなく、赤字企業を救済する手段になっている。
株式市場では個人投資家が中心で、個別株式の値動きに着目して、短期的な売買で値上り益を確保しようとする行動をとることが多い。
中国の株式市場には、うさんくささが付きまとう。中国的な市場経済とは、あくまで「社会主義」の冠がかぶせられた、資本主義国のものとは異質のものだ。
都市と農村の実質的な所得格差は5~6倍もある。東部地域の1人あたりの平均可処分所得は2万8223元、中部地域は1万8442元と、東部の65%。そして西部地域は1万6868元で、東部の60%。
業種でみると、最高の金融業と最低の農・林・牧・漁業では3.6倍の差がある。
これらの格差は固定化する傾向にある。
中国では、土地は国有であり、土地そのものを売買することはできない。しかし、土地の使用権は売買できる。そこで、地方政府は、農民から安い価格で収用した土地の使用権を不動産開発会社に高く売却して、差額を得ている。
インテリやマスコミ関係者のあいだでは共産党が求心力を失っている。
アメリカは、中国の最大の輸出先である。2015年の中国のアメリカ向け輸出は4095億ドルで、中国の輸出の18%を占めた。そして、中国のアメリカからの輸入は1487億ドルで、輸入全体の8.8%を占める。つまり、輸入額は輸出額の3分の1でしかない。
中国の外貨準備は3兆ドルを維持しており、日本の外貨準備の3倍。
外貨準備の大半はドルで運用されている。なかでも、アメリカの国債の保有額は1兆ドルを超えており、中国は世界最大のアメリカ国債保有国である。
中国にとって、ドルの価値が低下すると、外貨準備が目減りしてしまうという問題がある。中国はアメリカとの貿易で黒字をため込み、蓄積された外貨でアメリカの国債を購入してアメリカの借金を支えているという相互依存関係ができあがっている。
習近平は、毛沢東を除くと、新中国の歴史上初めての後ろ盾をもたない共産党トップである。このため習近平は、就任直後から、自らの立場を正当化する必要に迫られた。そこで習近平が実行したのは、反腐敗闘争の推進と、自らへの権力の集中と、宣伝の強化である。
北朝鮮の金正恩政権がいつまでもつのか、はなはだ疑問ですが、中国共産党による一党支配だって、その内実は危いようです。しかし、ひるがえって、わが日本はどうでしょうか。「一強多弱」と言われる安倍政権だって、もろいものだと思います。加計学園はひどいものですし、森友学園問題だって、まだまだ収拾したはずはありませんし・・・。
(2017年1月刊。1600円+税)

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