弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年6月10日

安藤忠雄・建築を語る

社会

(霧山昴)
著者 安藤 忠雄 、 出版  東京大学出版会

有名な建築家である安藤忠雄が東大の大学院生を前に5回連続で講義した内容が本になっています(1998年秋)。独学で建築学をきわめ、アメリカの大学で教え、そして東大の教授になったという経歴の持ち主です。すごい人です。
私も行ったことがありますが、瀬戸内海の直島に素敵な美術館をつくりました。地中美術館というのでしょうか、面白い構造をしています。ありきたりの形や構造はしていません。
東大の学生・院生の多くがゼネコンに就職し、会社に入ったとたんにおとなしくなるという現象を痛烈に批判しています。
終身雇用・年功序列で無難に行こうと思って、安定した生活を初めから求めるので、委縮してしまって、会社にしばられる。そうでなくて、これからは実力主義だと考えて、きっちり発言していくべき。そうでないと、世界は激動しているし、これまでのように日本の国のなかでだけ通用していた会社主義では生き抜けない。個人が強く意思をもって研さんし、しかも互いの異なる意見を認めあう客観性を備えて、きっちりと話し合う習慣を早く身につけておくべきだ。
フリーの建築家だったら75歳までは自分のペースで仕事ができる。ところが、それも若いときから、ある程度は自分が生涯かけてしていくことを決めておかないと、そんな年齢まで持続していくのは難しい。なーるほど、やっぱりそうですよね。
一流企業に入って、終身雇用・年功序列で、安全第一でいきたいと考え、まさしく20代で老化している人がいる。かと思うと、75歳でいつまでも青春を謳歌している人としか思えない人もいる。
肉体が老化していくのは止められない。しかし、精神のほうは、努力次第でむしろ挑戦する心や勇気はレベルアップしていくことが可能なのだ。
著者は、神戸の崖に大きな集合住宅(マンション)を建てています。私の身近にも、病院や保育園がかなりの斜面に建てられていました。大震災に強いマンションなら、何も問題ないわけですが・・・。
ちょっとハンディを与えてくれる崖だと、建築家としてガゼンやる気を出して本領を発揮するのでしょうね。そこが、プロは違います。
CADやCGによって描かれた図面からは、個性が見えにくい。手描きの図面だと、描いた人の思いや迷い、その文化的背景まで見えてくる。CADの図面は、一見すると完成度が高く充実した内容を伴っているように見える。ただ、その反面、世界中の誰が描いても似たような表情になってしまう。そんなところには文化が宿らないのではないかという懸念が生じるのも当然のこと。そして、その以前に、建物の致命的な機能上の欠陥が見落とされてしまうのではないかという問題もある。つまり、CADの図面では、描き手の不安や迷いがあらわれず、おさまっていないのを、あたかも収まっているかのように見えてしまう。
建築家になるためには、感性をみがく必要があり、それには旅に出かけるのが一番だという著者の持論が展開されています。まったく、そのとおりです。
本箱に「積ん読く」状態にあった本をひっぱり出して読んでみました。
(2003年11月刊。2800円+税)

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