弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年6月 3日

水壁

日本史(平安時代)

(霧山昴)
著者 高橋 克彦 、 出版 PHP研究所

著者の小説は面白いです。血湧き肉踊る、ワクワクしてくる冒険小説の趣きがあります。
新聞で連載されていたとき、毎週日曜日が楽しみでした。次はどんな展開になるのか・・・。
平安時代、東北にはアテルイという英雄がいたことを著者の先の本で知りました。京の都から派遣されてきた大軍を相手に真向勝負で戦い、戦略的勝利を得たというのですから、たいしたものです。それをまた、見てきたように再現してみせる筆力には恐れいるばかりでした。
今回は、そのアテルイの血を引く若者を中心として、京の都にたてついて、秋田の米代川以北はエミシの自治領とする合意を勝ちとったのです。信じられません。
この本のサブタイトルは「アテルイを継ぐ男」となっています。戦いを有利に導くための戦略、そして戦術が具体的に描かれていて、なるほど、さもありなんと思えます。
戦いを率いるのは、若い力だ。年寄りは、人の死を幾度も間近に見て気弱になっているばかりか、世の中の変わらぬことをつくづくと思い知らされ、あきらめが奥底にある。だが、若い者は先を信じられる。そのためなら死をも恐れない。暗い道に明かりを灯すのは、いつだって若い者だ。
これを読んで、私の若いころのスローガン、未来は青年のもの、を思い出しました。そして、世の中はいつか変わる。明けない夜はないという呼びかけも思い起こしたのでした。
次のようなセリフがあります。
「そなたには人の言葉に白紙で耳を傾ける素直な心と、状況を見きわめる明瞭な判断力が備わっている。さらに、人を動かす気にさせる熱がある。私欲もなければ、こたびのようにいざとなれば皆の先に立って野盗とやりあう度胸まで。それこそが将に求められるすべてだ」
「知恵と威張ったところで、それはただ頭の中に描いた絵でしかない。命を懸けて戦うのは兵たち。きっと勝てると思わせ、自分らとともに戦ってくれる将がいてこそ、兵は何倍もの力を発揮する。そなたがまとめであるなら、存分に策を練ることができ、楽しみだ」
この本が、どこまで歴史を反映しているのか知りませんが、東北の人々の偉大な戦いをまざまざとよみがえらせた功績は、きわめて大きいと思いました。ちょっと疲れたな、という気分のとき、読めば気を奮いたたせてくれること、間違いありません。
(2017年3月刊。1700円+税)

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