弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年5月27日

果てなき旅(上)

日本史(明治)

(霧山昴)
著者 日向 康 、 出版  福音館

田中正造の伝記です。田中正造は足尾銅山鉱毒被害事件を根絶するために、現職の代議士でありながら天皇に直訴した義人として高い評価を得ています。
本書(上巻)は、田中正造34歳までの苦難の歩みを描いています。綿密な裏付け調査で読ませます。
上巻あとがきを読むと、田中正造については、まだ解明されていないところも多々あるようで、本筋からはずれたと著者が考えたところには触れていないようです。
田中正造の明治44年(1911年)8月28日の日記は日本魂(やまとだましい)を書いています。
「国家の半面は存するも、半面は空虚なり」としています。日露戦争(1904年)のあとの言葉として、重い意味があります。
田中正造は、日清戦争についても領土拡張のための戦いになるのには反対しました。
田中正造は、殺人事件の容疑者として逮捕され、拷問を受けました。もちろん、まだ監獄法もない当時のことです。ですから、よく生き延びたものです。
なぜ、無実の殺人事件の犯人とされたのか、田中正造は地方政治権力の内部抗争の犠牲者のようです。それにしても、ひどい拷問でしたから、よくぞ生き延びたものです。
田中正造伝の本書を、ながく「積ん読」状態にしていたのを掘り起こして読んだものです。
大佛次郎賞を受賞しています。
(1989年3月刊。1650円+税

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