弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年5月15日

そして、ぼくは旅に出た

カナダ

(霧山昴)
著者 大竹 英洋 、 出版  あすなろ書房

面白い旅行記です。いつのまにか、自分も一緒になってシーカヤックを漕いでカナダの湖をすすんでいる気分になってきます。
若いって、いいですよね。見たこともない土地へ行って、憧れの写真家へ弟子入りしようと押しかけるのです。そこはカナダの辺ぴな湖のほとりです。車がなければ、湖をカヤックかカヌーで漕いでいくしかありません。それで、押しかけた先で即座に弟子入りを断られたら、どうしましょう。いいえ、そのときは、そのとき。それから考えれば、いいんだ。ともかく、行ってみよう。すごいですね、若者の特権ですね。変に分別のついた大人には、とても真似できません。
車があれば一日で行けるところをシーカヤックを漕ぎ、陸路はカヤックをかついで進むこと8日間もかけてたどり着きます。いえ、この8日間も、たっぷり道草を食うのです。なにしろ目ざすは写真家なのですから、シャッターチャンス優先です。珍しい鳥が産卵のために巣で卵を温めている光景を見つけたら、その写真を撮るのが優先なのです。
カナダのこの地方には危険な動物はあまりいないようです。でも、蚊とアブにたかられて困りました。
東京で育った著者は一橋大学ではワンゲル部に入り、虚弱な身体を鍛えました。そして、カヤックを漕いだこともないのに、キャンプした経験だけはワンゲル部でたくさんあるのを武器として、カナダの「ノーズウッズ」に挑んだのでした。
「ノーズウッズ」とは、北アメリカ大陸の中央北部に広がる湖水地方を指す。そこには数え切れないほど多くの湖が存在する。緯度が高いので、冬の寒さは厳しく、マイナス30度はあたりまえ、1年の半分は雪と氷に閉ざされ、ときにはマイナス50度にもなる。
著者は、1999年以来、この地に通い続けている。
この本は、その最初のときを刻明に再現しています。よくもまあ詳細に描き出したものです。写真家としてだけでなく、文才のほうも相当なものです。メモ魔を自称する私も顔負けです。
著者がスノーウッズに足を初めて踏み入れたのは24歳のときです。3ヶ月間そこにいて、人生観を大きく変え、自信をつけたのです。いやあ、うらやましい限りです。
この本に登場してくるのは、ジム・ブランデンバーグ、オオカミの写真で世界的に知られる自然写真家、そして極地探検家のウィル・スティーガーの二人です。この二人に、8日間のカヤックの旅でやってきた日本人だということで、歓待されたのです。努力が報われました。 
そして、そのきっかけは、著者のみた夢だったのです。夢って、あだやおろそかには出来ませんね。カヌーどころか、東京になる井の頭公園の貸しボートを漕いだことがあるくらいという著者の言葉には、つい笑ってしまいました。私も、大学生のとき、彼女とデートしたときボートを漕いだことを思い出しました。
400頁をこす部厚い本ですが、私は半日かけて夢見心地で読み通しました。わあ、こんなところがあるのか・・・。行ってみたいな。そう思いました。東京のディズニーランド(一度も行ったことはありません。行く気もありません)より、よほどことらのほうが面白そうです。とはいっても、一人で森の中でキャンプする勇気と技術を身につけていなくてはいけません。その若さをうしなってしまったのが残念です。その思いを、この本を読んで少し満たすことにしたのです。
このころちょっと疲れたな、そんなときには旅に出ましょう。そして、この本を一緒に持っていけば最高ですよ、きっと・・・。素敵な本をありがとうございました。
(2017年3月刊。1900円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー