弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年5月 7日

果鋭

警察

(霧山昴)
著者 黒川 博行 、 出版  幻冬舎

これも警察小説と言えるのでしょうね。といっても、活躍するのは現職の警察官ではなく、問題を起こして辞めた(辞めさせられた)元刑事なのです。
パチンコ屋を舞台として、暴力団や暴力団まがいの連中と伍角の危ない勝負をして、大金をせびりとっていきます。まるっきり、邪悪の世界です。
そもそも、パチンコと警察の関係は、「パチンコ業界が警察に天下り等で利益を提供し、その代わりに換金黙認や釘調整黙認などの利益を得る」というギブ・アンド・テイクの図式で成り立っている。この図式が2002年の日韓共催サッカーワールドカップで様相が一変した。このときパチンコ業界と警察が対立した。
70年代から80年代にかけて、ゲーム喫茶やゲームセンターを家宅捜索した保安係や風紀係の刑事たちが最初にすることは、店のさい銭箱やゲーム機の収納ボックスを開けて、仲に入っているお礼を自分のポケットに隠すことだった。
1982年に発覚した「大阪府警ゲーム機汚職事件」では、当時の巡査長や前任の大阪府警本部長が首吊り自殺をした。
パチンコ業界は、ヤクザからも警察からも喰われてきた。これは、私も、パチンコ経営者本人から聞いたことがあります。
今では、パチンコ店はホール全体がコンピューターと化している。したがって、素人がパチンコに勝つ方法はない。パチプロでも勝てない。パチンコ台がコンピューター化されるにつれて、釘調整の必要性が薄れ、今では釘師(くぎし)の存在は薄い。
今のパチンコ台は、一台で40万円もする。デフレの時代にもかかわらず、遊技機の単価は、20万円から、30万円、40万円の値上がりし続けている。
店は日によって還元率を変える。80%だと客は全滅。90%だと勝つ客もいる。日曜・祭日や年金支給日は80%、平日は90%にする。
客は生かさず殺さずだ。遠隔操作で、機械と客を騙くらかす。
私も、40年以上も前の司法試験の受験生時代には、図書館に向かうはずが私鉄駅前のパチンコ店に朝10時の開店と同時に入店して、パチンコしていた時代もあります。そのころは、玉を一発一発、手で穴に入れて打つ方式でした。今では、車を運転している途中にトイレを借りるために入店するくらいです。あの騒音が耐えられません。
警察組織において、監察は特異だ。彼らは上層部の指示で警察官の悪を暴き、世間に対しては隠蔽する。それは決して正義のためではなく、上層部の権力闘争やライバルを追い落とすためのシステムとして機能する。すべての警察官は、監察を畏怖し、嫌悪する。鑑察のメンバー自身は、強烈なエリート意識をもっている。監察はたしかにエリートであり、その閉鎖性は公安に似たところがある。他の警察官の恥部をにぎっているだけに昇進は早い。
警察にたかられて弱っているという人の相談を受けたこともあります。被害者だったり、加害者だったりして警察官と顔なじみになると、事件が終わってからも顔を見せるので、なにかと接待し、手土産を持たせるというのです。もちろん、何も問題のない企業であれば、そんなことをする必要もないのでしょう。でも、現実には日本を代表する超大手企業から、町の零細工場まで、たいてい叩けばホコリの出てくるものなのです。警察にたかられたら、もう逃げるところはないと、その人は苦笑していました。
小説なので、誇張とデフォルメがすごいのだろうなと思いながらも、こんな元刑事には近寄りたくないものだと思ったことでした。
(2017年3月刊。1800円+税)

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