弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年5月 4日

流しの公務員の冒険

社会

(霧山昴)
著者 山田 朝夫 、 出版  時事通信社

東大法学部を卒業して自治省のキャリア官僚になった著者が地方へドサ回りしているうちに、古巣の中央官庁には戻らず、各地を転々とし、ついには定着してしまうという実話です。
すごいですね、鹿児島県、大分県、愛知県の県と市へ派遣されています。その間に、衆議院法制局、自治省選挙課、自治大学校にも勤務しました。
公選法の改正に関わった自治省選挙課では、まさしく不眠不休で仕事をしていたとこのこと。その実情を知ると、ちらっとだけキャリア官僚にあこがれたこともある私ですが、本当にならずに良かったと思いました。
では、ドサまわりを経て、中央官庁でのエリートコースの道を歩まなかったのは、なぜなのか・・・。この本を読むと、さもありなんと納得できます。
仕事とは問題を解決すること。問題とは、あるべき姿と現状のギャップである。問題には、見える問題、探す問題、つくる問題の3種類がある。
人間社会で起こっていることは、人間の仕業(しわざ)である。人がどう動くのかは、人がどう考えるのかによる。人の考えは、多くの場合、合理的ではない。感情で動く。人の心は、どのようなときに動くのか。それは、驚いたときだ。
上から目線では人は動かせないという著者の体験は、集団で物事を考えていく力になっていったのでした。
立身出世よりも、やり甲斐。この社会に、いささかなりとも貢献できているという満足感が著者のエネルギーを支えていたように思います。
そして、ユーモアたっぷりに仕事をする。仕事は楽しいものだという実感を、中央官僚では味わえなかったものを、地方で体感したからこそ、地方に定着してしまったのでしょうね。
読んで元気の出る、いい本でした。キャリア官僚を目ざす学生にはぜひ読んでほしい本です。
表紙にはトイレの便器を素手で掃除している笑顔の著者がうつっていますが、充実した人生を送っていることを見事にあらわしています。
(2016年12月刊。1500円+税)

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