弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年4月27日

貧困クライシス

社会


(霧山昴)
著者 藤田 孝典 、 出版  毎日新聞出版

日本で貧困が広がり続けている。それも驚くほど速いスピードで。あなたも、気がついたら、身近に迫っていて、身動きできなくなっているかもしれない・・・。恐ろしいことです。
子どもの貧困は見た目では分からない。自分は誰にも大事にされていない。存在があってないようなものだと感じる。そんな子どもたちが日本各地にひっそりと生活している。
健康で文化的、そして人間らしい生活ができない。相対的貧困が拡大している。
私が大学生だったころ、つまり50年も前に、絶対的貧困と相対的貧困の違い、そして、今、どちらも進行しているのではないかという議論をしていました。この議論が50年後の現代日本にも依然として生きているというわけです・・・。
民間企業で働く人の平均年間給与は、1997年に467万円だったのが、2015年度には420万円と、50万円近くも下がっている。
公務員バッシングをして、自分たちの公共サービスを削減している。市民が自身の生活に深い関係のある公務員労働者を減らし、自分自身を、より厳しい状態に追い込んでいる。日本では、現在の公務員労働者の数は、すでに異常なほど少ない。
非正規雇用は、正規に比べて糖尿病合併症のリスクが1.5倍も高い。そして、教育年数が短い低所得の高齢者ほど、要介護リスクも大きい。経済力によって、病気のリスクや寿命に格差が生じる。
所得が低いほど食生活や健康に費用や時間を割けず、栄養状態も不良で、その結果、健康を損なう確率が高い。これでは自己責任だとは言えない。
まだ下流に落ち込んではいないと、少なくとも自分では思っている層が、下流を警戒し、憎むという構図になっている。
介護保険も生活保護も、申請主義である。なので、人様(ひとさま)には迷惑をかけられない、かけたくないという人は、手を伸ばしにくい。
日本とイギリスではホームレスの定義が異なっていて、イギリスの定義によれば、今の日本には膨大な人々がホームレスになっている。ネットカフェ難民は、立派なホームレスなのだ。
65歳以上の高齢者が刑務所に入るのが、この20年間ほぼ一貫して増加している。2014年は、1995年と比べて総数で4.6倍に、女子では実に16倍に激増した。女子の場合、罪名の9割が窃盗、うち8割が万引。
著者は、プライドを捨て、「受援力」をもというと呼びかけています。大切な呼びかけです。
そして生活保護は「相談に来ました」ではなく、はっきり「申請します」と言うことだとアドバイスしています。必要なことです。
社会のみんなで困っている人を温かく支えあう。それが社会の正しいあり方ですし、正しい税金のつかい方なのです。遠慮することなんかありません。
歯切れのいい新書です。一読をおすすめします。
(2017年3月刊。900円+税)
パキスタン映画『娘よ』を東京の岩波ホールでみてきました。先輩の藤本斉弁護士と、ばったり顔をあわせて驚きました。
パキスタンの山奥には多くの部族が割拠し、対立、抗争、復讐の連鎖による殺人が絶えない。女の子たちは15歳で親の言いなりに政略結婚させられる。しかし、王子様との結婚を夢見るばかりの可愛い我が娘を、敵対する老部族長の嫁に差し出すなんて耐えられない。母親は娘を連れて村を飛び出す。
この映画の主役の母親と娘の美しさと気高さには思わず圧倒されてしまいます。そして、行きかかりで母と娘の逃避行を助けるトラック運転手役の男優も格好いい限りでした。パキスタンの困難な状況の下でも、女性が活躍を切り拓いているからこそ、こんな素晴らしい映画が出来たのでしょう。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー