弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年4月21日

また、桜の国で

ヨーロッパ(ポーランド)


(霧山昴)
著者 須賀 しのぶ 、 出版  祥伝社

第二次大戦前のヨーロッパが舞台です。
ナチス・ドイツが台頭しつつあり、戦争に向けて緊迫した状況が生まれています。
ヒトラーがイギリスのチェンバレン首相と笑顔で握手します。チェンバレン首相が見事にだまされたわけです。
ポーランド人の父と日本人の母のあいだに生まれた青年が、外交官としてワルシャワの日本大使館で働くようになります。
第二次大戦のとき、ポーランド人の戦災孤児56人が日本へやってきて、日本は温かく彼らを迎え入れ、育てて本国へ送り返したということもありました。私は、ワルシャワ蜂起について日本人の書いた本で、そのことを知りました。この本にも、その親日ポーランド人青年が登場し、活躍します。
ポーランドの孤児たちは4歳から12歳までだったので、たちまち日本語を習得した。そうなんですよね。子どもの頭の柔らかさは、万国共通、まったく変わりません。私の孫の一人も、いま、日本語と韓国語を上手に使い分けて育ちつつあります。大人には、とても出来ない芸当です。
1939年10月1日、ナチス・ドイツ軍がポーランドに侵攻し、ワルシャワを占領した。ポーランド軍が降伏したのは9月28日だった。
ワルシャワにある日本大使館に所属する外交官として、ナチス・ドイツのユダヤ人迫害に対して、いかに対処するか、難しい決断が迫られます。同じころ、「センポ・スギハラ」は勇気ある決断をして、いま高く賞賛されています。
ワルシャワ市民がナチス・ドイツ軍に抗して蜂起して立ちあがります。しかし、その結果は無惨なものでした。スターリンが意図的に見殺しにしたのです。
歴史をふまえて、人物がよく描かれている小説だと思いました。ワルシャワ蜂起の実情については、このコーナーで何冊か紹介していますが、その素材をもとに想像力で補ってストーリーをつくりあげる著者の筆力たるや、たいしたものです。さすがは直木賞候補作だと思いました。
(2016年10月刊。1850円+税)

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