弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年4月20日

安倍三代

社会

(霧山昴)
著者 青木 理 、 出版  朝日新聞出版

安倍首相の国会答弁のひどさは、一言でまとめると、えげつないということになります。国民に対して、論争点を誠実に説明しようという気がまるでありません。そのくせ口先では説明責任を丁寧に尽くしたいとは言うのですから、救いようがありません。
どうして、こんなに不誠実を絵に描いたような首相の支持率が5割をこえているのか、世の中の七不思議のトップに来ます。
この本は、安倍首相がどういう育ちなのか、いつからそうなのかに迫って、解明しようとしています。
安倍首相には受験戦争の経験がまったくない。成蹊学園の小学校に入り、中学、高校、大学までの16年間を過ごした。そして、同じ学年やクラスを一緒にした人、そして教える側の教員にまったく印象を残していない。
可もなく不可もなく、どこまでも凡庸で、なんの変哲もない、おぼっちゃま。
ごくごく普通の「いい子」だった。成績が悪かったわけではないが、決して優秀でもなかった。東大は無理だったし、早稲田や慶応も恐らく無理だったろう・・・。
アーチェリー部に入っていたか、とくにいい成績もあげていない。アメリカに行ったけれど、その実態は語学留学に毛のはえた程度にすぎない。
若き日の晋三は、16年も籍を置いていた学び舎で何かを深く学んだという形跡がまったくない。少なくとも、何かを深く学んだと教員や周囲の人間から認識されていない。何かを学んだという印象すら残していない。特筆すべきエピソードがない。悲しいまでに凡庸で、なんの変哲もない。善でもなければ、強烈な悪でもない。
母方の祖父である岸信介には溺愛された。では父の晋太郎はどういう政治家だったか。
晋太郎は、タカ派の系譜を継ぎつつも、実際には、平和憲法擁護論者だった。
晋太郎には戦争体験があった。特攻を志願し、もう少し戦争が長引いていたら、生命がなかったかもしれなかった。
晋太郎には、必死で地盤を耕したことに由来する目線の低さ、なによりも絶妙のバランス感覚があった。特攻に散る寸前だった戦争体験は、晋太郎の基底に強固な反戦意識を形づくっていた。晋太郎は東京帝国大学法学部に入学したものの、学徒出陣で海軍の滋賀航空隊に徴兵された。
さらに晋三の祖父・安倍寛はどうか。
安倍寛は戦前、東京帝大法学部を卒業し、村長を経て衆議院議員に当選している。
それも、大政翼賛会の推薦ではなくて無所属として・・・。安倍寛は、貧富の格差を憤り、失業者対策の必要性を訴えた。ええっ、これって無産政党の主張と同じではありませんか・・・。
安倍寛は、村長をつとめていた日置村では98%もの票を独占した。特高警察の干渉にもめげず、1942年にも2度目の当選を勝ちとった。
安倍寛は、大政翼賛会に反対し、裸一貫で東条英機に反対した。ところが、安倍寛は惜しいことに戦後、1946年に51歳で病死してしまった。
安倍家三代で、今の晋三は、祖父にも父にも似ていないことがよく分かる本です。
恐らく晋三には強烈な学歴コンプレックスがあるのでしょう。それを見せないためにも強がりを言い通すしかないのです。でも、それで迷惑を蒙る国民は、たまったものではありません。安倍家の三代をよくぞ調べあげたものだと思います。
決してキワモノ、決めつけ本ではありません。ご一読をおすすめします。
(2017年4月刊。1600円+税)

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